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自作 Hastings 12.5mm [天文>機材>アイピース]

EO(Edmund Optics)で販売されている3枚玉アクロマートレンズ、ヘイスティングス・トリプレット(Hastings-Triplet)の焦点距離12.5mmの商品を取り寄せて1群3枚のアイピースを自作してみました。

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このレンズの直径は8mmでしたので、8mmのレンズが収まっているアイピースの筐体を流用しようと探した結果、以前見え味の良さと面白い設計ながらも製造品質の余りの悪さに評価を断念して部屋に転がっていたDatyson PL12.5mmのレンズの収納部分が丁度8mm径で、レンズを入れた隙間を埋める8mm径の中空スペーサーをミスミで調達する事で(内部はつや消し塗装しました)31.7mm径のアイピースとして使用出来るヘイスティングスを自作する事が出来ました。

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天文ファンであれば1群3枚のアイピースと言えばヘイスティングスよりモノセントリックの名前がまず頭に浮かぶかと思いますが、今回はこのモノセントリックの開発の経緯について自分なりに調べてみました。

まず最初のモノセントリックはヒューゴ・アドルフ・スタインハイル(Hugo Adolph Steinheil)によって1883年頃に考案され、厚いガラスを貼り合わせた非常に特異な外観ですが、レンズの各曲面が同一の中心を持っており、モノセントリック(Mono-Centric:単一の中心を持つ)と呼ばれる由来となっています。

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この断面図を見て単一の中心、と言われてもピンと来ないかも知れませんので、図解すると、

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この様なイメージになります。(※実際はこの初期のスタインハイル・モノセントリックでも厳密には中心は一つではなく複数持っていたと言う話もあります)こうして見るとボールレンズアイピースの発展型、と捉える事も出来るかも知れません。

このスタインハイルの設計を改良したのがチャールズ・ヘイスティングス(Charles Sheldon Hastings)で、単一の中心を持たない、厚みが薄く左右対称な、シンプルな形状ながら優秀な設計として有名となり、視野は狭いながらも惑星用アイピースとしては不動の地位を築いたTMBのスーパーモノセントリックの原型とも言われています。

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一方Zeissでもモノセントリックのアイピースを開発していますが、これは1890年にエルンスト・アッベとポール・ルドルフによって開発されたトリプレットが原型となっており1911年にZeissの特許を取得して、その後製品化されており、現在では高いプレミアがついています。

形状としてはヘイスティングスとZeissのモノセントリックはとても似通っており、開発時期もほぼ同時期ですので開発競争などもあったのでは無いかと想像しますが、現在モノセントリックと呼ばれる1群3枚のアイピースは実は本来の意味(単一の中心を持つ)でのモノセントリックではなくヘイスティングスがその原型としてマニアには認知されているようです。

ですのでTMBスーパーモノセントリックもモノセントリックと呼称するのは語弊があるような気もするのですが、Zeissもそう呼ぶ様にこの様なトリプレットをモノセントリックと呼ぶのは慣習となっていたのかなと想像しています(モノセントリックと呼ぶのは間違いだ!と主張する方もいます)。

今回EOでヘイスティングス・トリプレットを単品で販売されている事を知って、モノセントリックを自作出来る!と考えたのですが、モノセントリックの名前の陰に隠れて中々表に出てこないヘイスティングスの名前をせめてこの自作アイピースには冠してみようと思ったのでした。

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実際の見え味ですが木星で他のアイピースと見比べると予想以上にかなり良く見える印象で、このレンズが入っていた袋のラベルにはMade in Japanの文字が記されていましたが、他の日本製の優秀なアッベやプローセルに比べても遜色無い、もしくはそれを上回る見え味です。モノセントリックと言えばゴーストが出易い印象で、TMBモノセンはコーティング技術で発生を抑えていますが今回のヘイスティングスはシングルコーティングとの事でしたので発生を覚悟していましたが実際には特に目立つ事も無く、一応迷光処理も施した効果も出たのかストレスの感じない観望が可能です。

今回のレンズは設計が如何に優れていたとしても特に望遠鏡用のパーツとして販売されているものではありませんでしたので、望遠鏡用のアイピースとしての使用に耐える品質、精度を持っているのかは未知数で、設計だけに期待して購入するのは一つの賭けでもありましたがその様な心配は杞憂である事が分かり、どちらかと言えば自己満足で作ってみたかったアイピースでしたが期待以上の実力で、今後の観望に向けて力強い武器が加わって楽しみが増えました。