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笠井 BLANCA-102EDP [天文>機材>望遠鏡]

小口径アポをFL-90Sに一本化する目的であれ程お気に入りだったFC-100DLを手放したにも関わらず、またしても違う10cmアポを手に入れる事に関しては相当な葛藤がありました。それでも購入に踏み切った動機はこの鏡筒(以下102EDPと呼称)のF11のアポ屈折と言う新製品としては近年稀に見るスペックにありました。

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FC-100DLを手放した大きな理由の一つはF9のフローライトアポと言うスペックがFL-90Sと全く同じであった事からキャラクター(?)が被ってしまい、両方の鏡筒を使い分ける楽しみに自分的に乏しい事がありましたが、102EDPのFPL-51相当と噂されるEDレンズ採用にF11の長焦点の組み合わせであればFL-90Sと住み分けが出来て楽しめそうに感じ、また今の短焦点の写真向け鏡筒が全盛のご時勢にこの様な眼視に特化した長焦点鏡筒をリリースしたメーカーの心意気に応えたい気持ちが購入の後押しとなりました。

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しかし今のご時勢長焦点鏡筒にどれだけメリットが存在するのか、ただ長焦点鏡筒に対する憧れのみで手を出すのも悩ましいものがありましたので、改めて長焦点鏡筒のメリットを考えてみました。

《対物レンズの曲率》
長焦点鏡筒は対物レンズのRを浅く(曲面を緩やかに)出来る、つまり研磨量が少なく済む為エラーを起こし難く、設計通りの性能の出し易さと言う点で有利で、望遠鏡が工業製品である事を考えれば決して無視できない要素と思います。高品質なレンズが製造し易い事で、コストパフォーマンスの高い鏡筒を安定供給できるメリットは大きいと考えられます。

《高倍率適性》
個人的な運用で言えば惑星観望時のアイピースは焦点距離が12mmのものしか使いませんので、鏡筒によって異なる適性倍率はバローで調整して出す事になりますが、長焦点鏡筒であればバローの拡大率を下げる事が出来るので、入射側も射出側も光線の角度が浅く光学系の負担を減らす事が出来、より対物の性能が引き出せて見え味にも反映されると考えられます。

《コントラストの向上》
鏡筒が物理的に長いので迷光を減らし、バックグラウンドを暗くする、対象のコントラストを上げる効果が見込めます。

《ピント深度の深さ》
長焦点鏡筒は焦点深度が深くなり、ピントの合う範囲が広いので、ピント位置が鋭くシビアな短焦点鏡筒と比べると高倍率でのピント合わせが容易になります。

《光軸修正》
長焦点になると光軸がシビアではなくなり、調整難度が低下しますので余り光軸に神経質にならなくても十分な性能が発揮出来るのは光軸を気にし易い人にとっては安心できるポイントです。

《収差補正》
長焦点鏡筒が色収差の面において格段に有利な事は言わずと知られた事ですが、対物レンズのRが浅ければ当然球面収差も少なくなり、短焦点鏡筒では制御の難しい周辺像の収差も大きく軽減出来、Fの長さは七難隠すの格言の通りその他収差補正の面でもあらゆる点で原理的に有利となります。



かつて市場に出回った長焦点屈折の大半がアクロマート屈折である事を考えると、102EDPはFPL-51相当ながらもアポ屈折でありながらこれらの恩恵を享受出来るのが最大の魅力と言っても良く、現在の短焦点アポも非常に優秀ですが、硝材の差をどの程度ひっくり返せるのかがこの鏡筒の見所と言えるかも知れません。

まずは実物を手に入れて外観の印象ですが、鏡筒が長い事は長いのですが商品画像でみるほど長くは感じない、扱い易い範囲で留まっています。それでもFC-100DLに比べると二回り程大きく感じられ、TSAにも近いボリューム感がありますが重量は見た目よりも軽く感じられ、APポルタに載せても無理無く扱える範疇で10cmアポの軽快さは失ってはおらずこの点は少し安心しました。

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純正ポルタではFC-100DLでも厳しかったですのでこの鏡筒を載せるのは正直厳しいと推測しますが、スコープテックのZERO経緯台ならある程度大丈夫では無いかと思います。ただ鏡筒が長いですのでAPポルタで使用してもピント合わせ時の振動はそこそこ出ます。

接眼部は2.5インチのラックアンドピニオンなのですが、正直見た目ほど上質な印象は受けませんでした。ピント合わせでゴリッっと変な感触が伝わる時があり、この接眼部も御多分に洩れず重量アクセサリー搭載時には微動が若干空回りする事もあったりと少し造りに雑さを感じますが、致命的に困る程でもなく何とか及第点の造りと言ったところです。

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実際の見え味について、地上風景では電柱や電線の淵と言った色収差を感じ易い部分でも全く感じる事はありません。星を見ると極めてシャープなエアリーディスクが印象的で、木星の表面模様などはサイドバイサイドで見比べなければTSAとそれ程見え味は変わらないんじゃないかと思わせる点でFC-100DLと比べても遜色無い、10cmアポとしてまず文句の出ない見え味を発揮していると感じます。勿論同等の見え味であればより軽くコンパクトなFCの方が優秀な鏡筒と言えなくもないですが、その一方で価格差は2.5倍ありますので、コストパフォーマンスの点では102EDPに大きく軍配が上がり、長焦点のメリットを遺憾無く発揮している鏡筒と言えると思います。

この様なある種郷愁を誘う長い鏡筒に好感が持てる方には見た目だけでなく性能も備わっており、最高クラスの10cmアポの見え味を出来るだけ安い価格で手に入れたいと考える方にも文句無くお勧めできる鏡筒です。