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Nikon 双眼装置(顕微鏡用→望遠鏡用改造) [天文>機材>双眼装置]

今回はNikonの双眼顕微鏡の双眼装置部分を望遠鏡用の双眼装置として使えるように改造してみました。

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これまで我が家で孤軍奮闘していたMk-V双眼装置の性能には全く不満はありませんが、唯一弱点があるとすればやはり重いところかも知れません。この重さはアメリカンサイズのフル口径を使用したアイピースでもケラレが生じない大型のプリズムを採用している事が一因となっており、自分の12mmクラシックアイピースを主に使用する惑星観望においてはオーバースペックだった事もあって、少々開口径が絞られても影響が無いのでもう少し軽い双眼装置が欲しいと思うようになりました。

そんな折一昨年バーダーからMk-V双眼装置の弟分とも言えるMaxBright2双眼装置が発売され、アイピースの保持機構や望遠鏡側の取り付け方法などMk-Vと同等の仕組みを採用しており、使い勝手がそれ程変わらずに595gとMk-Vより大幅な軽量化を実現していた事から昨年こちらを注文しました。しかし折からの世界的な半導体不足などの影響からか入荷する目途が立たない日々が続き、余りに待たされる中でアイピースは顕微鏡用を流用する事に抵抗が無くなり、性能的にも高く評価出来るものが少なくなかった事から双眼顕微鏡用の双眼装置部分を望遠鏡用に流用出来ないかを考えるようになりました。

調べるとこの様な改造はハイアマチュアの天文家の方でも実行されている例がいくつも見受けられ評価も高く、顕微鏡用となるとZeissやLeica、Nikonやオリンパスと言った高い実績を持つメーカーの製品が使えるのが何より魅力的で、その中でも入手が比較的容易で、現在望遠鏡用では殆ど無いと思われる日本製の光学エレメントを採用していると思われた、何よりNikonで設計、製造された信頼感が得られる今回の双眼装置を入手したのでした。

この双眼装置は23.2mm径の接眼レンズの使用を想定しているので入射口径、射出口径共に小さめですが、先述した様にバローを併用した惑星観望では何の不都合もありません。このサイズの接眼レンズに対応している時点でかなり古い製品の可能性がありますが、逆にそれが日本製の光学パーツが隆盛の頃の製品とも考えられ、アイピースでもツァイスサイズのペンタOニコンO等の性能の高さを鑑みると逆に期待出来る部分もありました。

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結果的に構成は対物側から以下の様になっています。

・2インチバレル-M42オスAD
・接続アダプター(自作)
・Nikon双眼装置本体
・23.2mmバレル-M42オスAD
・Baader ClickLockアイピースホルダー(#08)

今回の改造のキモは双眼装置本体と2インチバレルを接続するアダプターの自作でした。当初この部分を特注で業者さんに作ってもらおうと考えていたのですが、この接続部分のネジ間隔が特殊でノギスで測っても正確な値が割り出せず、設計が出来ないので特注も出来ない状況に陥って計画が一時頓挫し掛かけたのですが現物を見ながら悩んだ結果、自力でタップを立てる技術があれば位置決めは現物合わせでアダプターの自作が可能と思われたので、意を決してネットで調べ、工具を揃え、試作を重ねた事で何とか技術を会得出来て無事アダプターを完成させる事が出来ました。

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もう一点改造しようか悩んだ部分は接眼側で、アイピースホルダーを双眼装置本体に最短光路長で接続するアダプターが作れれば理想的でしたがそこまでは自分にはハードルが高く、光路長は伸びる事を許容した上で接眼部にM42へ変換するアダプターを接着し、そこにアイピースホルダーを接続する本体には手を加えない方法を採用しました。

この構成で光路長はMk-Vより少し長く、重量は約604g(ノーズピース含まず)と目標の600g弱は達成できず、バーダーのClickLockアイピースホルダーが2個で笠井のBS双眼装置よりも高価だったりと当初の想定より短くも軽くも安くもなりませんでしたが、それでもMk-Vに比べると200g程度軽量ですのでやはり全然軽くて扱い易いと感じます。

肝心の見え味に関しては木星や土星を見る限りでは像の明るさはMk-Vに軍配が上がる印象ですが、模様の見え具合、解像度に関しては全く引けを取らない印象で、この見え味であれば安心して惑星観望に使用出来る性能と感じました。実はこの双眼装置には左右のガラス内を通る距離を一致させる為の補償ガラス(Compensation Slide)と呼ばれるガラスシリンダーが右接眼部に内蔵されているのですが、これはかなり強硬な手段を用いなければ外せないと判断したのでそのままですが、実際の見えには殆ど影響していない様に感じました。

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Mk-V双眼装置は重くて高価な面で扱いに気を遣う部分がありましたが、今回の双眼装置であれば何かトラブルがあっても比較的取り返しがつく面もありますので(実はこの本体部分をもう一個体バックアップで確保しています)、性能を損なわずに手軽に使える双眼装置として今後活躍する機会が増えそうです。

Zeiss West Germany Kpl20x(顕微鏡用接眼レンズ、12.5mm相当) [天文>機材>アイピース]

冷戦時代にZeissが東西ドイツで分かれていた時代の西ドイツ側のZeissで製造された顕微鏡用接眼レンズです。

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東ドイツ側のCarl Zeiss Jena(略してCZJ)の望遠鏡製品は民生品も販売されていたのに対し、西ドイツのZeissからはアマチュア向けの製品は製造されておらず、こうした顕微鏡用の接眼レンズを流用する方法でなければ西独Zeissのレンズで星を眺める事は難しいかと思われます。その点で貴重な見えを味わえる接眼レンズと言えるかも知れません。

レンズ形式は不明ですが、KplのKはコンペンゼーション、plはプラン対物向けの接眼レンズと解釈すれば、絞り環が視野レンズより対物側に設置されている事からやはりケルナーに近いデザインなのではと推測しています。また絞り環径をノギスで測ると8mmですので見掛け視界は約37度と算出しています。因みにこの接眼レンズは2本1セットで入手しましたが、片方の接眼レンズにはスケールが内蔵されていて、星見に使う上でスケール版が絞り環に接着されていたのを剥がす一手間が掛かっています。

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惑星観望における見え味は本当に素晴らしく、我が家の12mmアイピースの中でも文句無しのトップクラスです。CZJの12,5-OPK20xに比肩し、優秀な国産アイピースと比較しても一段模様が詳しく見える驚異の見え味で、Zeissの接眼レンズには特別な何かがあると思わせる、元々Zeissに強い想い入れを持っておらず、強い期待もしていなかった(失礼)自分にそう感じさせる程確かな実力を持った接眼レンズと評価しています。

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勿論この接眼レンズは天体用ではありませんので周辺像は多少崩れますがPK20x程ではなく、コーティングのお陰か迷光もそれ程感じないトータルバランスでも非常に優れた接眼レンズの印象です。何度も書いていますが周辺像に関しては天体用の12,5-Oが完璧です(もしくはペンタO)。

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東西ドイツ統一後のZeissでは天体用アイピースとしてZAOが市販された一方、顕微鏡用接眼レンズは自分が探す限りでは20xは存在しなくなったので、この焦点距離に拘るならば冷戦以前の製品に頼らざるを得ませんが、東西どちらでも手を出しても文句の出ない実力を有していると個人的には確信するところです。