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UW6mm 68° [天文>機材>アイピース]

APM12cm対空双眼鏡の視軸状態は期待以上に良好で倍率をもっと上げても大丈夫そうと感じ、5mm程度の焦点距離でそこそこ広角で、アイピースケースの収納の関係で細いアイピースが欲しいと考えた結果、手持ちのUW9mmの品質、見え味に満足していた事から同シリーズの最短焦点距離であるこのアイピースを手に入れました。

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スマイスレンズ入り短焦点アイピースなので恐らく大丈夫だろうと予想していた通りAPM12cm対空で使う限り周辺像の崩れも見受けられず、ややフローティングエフェクトを感じる見え味で星像も問題ありません。レンズ構成も3群5枚とハイアイ広角アイピースとしては少なめでVX10L等倍レンズを使用時の高倍率、惑星双眼観望用としてもとても相性が良く重宝しています。

SVBONY アイピース 接眼レンズ 天体望遠鏡用 6mm 68° 31.7mm径
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Clave 12mm [天文>機材>アイピース]

12mmクラシックアイピースを集めていた中でその存在は知りつつも長年中古市場で見掛ける事が殆ど無かった為入手する事は無理と考えていたこのアイピースを遂に今回手に入れる事が出来ました。

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これまで自分はクラベに関してフランス製の高性能プローセル、と言う以外の事は殆ど知りませんでしたので今回入手をきっかけにどの様なアイピースなのか調べてみました。CNのフォーラムやその他ネットに上がっていた資料から読み取った情報を自分なりに整理、要約すると、まずこのクラベの名前はメーカーを立ち上げたセルジュ・ルネ・クラーベ(Serge-René Clavé)氏の名前から来ており、氏の施設は1937年4月20日に設立、クラベ氏が1988年1月に死去するまで事業が続けられ、1989年にキノプティック(Kinoptik)社に買収されました。その後更に別の会社に事業が受け継がれて2010年過ぎ頃消滅したとの情報がありましたが、クラベのアイピースの変遷を語る場合、キノプティック買収以前(Pre-Kino)か以後かで大別されるようです。

クラベのアイピース設計はプローセルであり、世界で最初に市販されたプローセルらしいです。昨今の安価なプローセルは製造コストを抑える為に前群と後群に同じダブレットを採用した、いわゆる対称型のプローセルと呼ばれるものでこれに対し、クラベは前後非対称のプローセル設計となっておりこれは1953年にフランスの光学エンジニアのジャン・テクスロー(Jean Texereaux)氏によって設計され、彼がフランスのピック・デュ・ミディ天文台の所長であった時にこの天文台用の接眼レンズを製造する業者として選ばれたのがクラベで生産は1954年末に開始されました。

クラベの焦点距離ラインナップは、27mm/31.7mm径は、

3mm/4mm/5mm/6mm/8mm/10mm/12mm/16mm/20mm/25mm/30mm/35mm

50mm径は、

30mm/35mm/40mm/45mm/55mm/65mm/75mm

が存在し、特に50mm径の接眼レンズはピック・デュ・ミディ天文台で惑星観測用に使用されていた事からこの名(Pic du Midi)でも呼ばれているようです。ある意味プロ用の接眼レンズと言えるかも知れません。

クラベは多くのマイナーチェンジが繰り返され、第一世代(50年代?)、第二世代(60年代?)、第三世代(70~80年代?)、Kinoptik以降(80~2000年代)と分かれるのがマニアの認識の様ですが、クラベは外観から製造時期を突き止めるのは中々難しいらしく、判別ポイントとしては第一世代は(テカテカ光る)クローム製のバレルが特徴的で、バレル内がグレーのパウダーコート(反射防止コーティング)されたモデルはクラベ氏が亡くなる以前のものでこれが第二、第三世代、バレル内がラッカー塗装やフィルターネジが付いているものはKinoptikに買収された以降のものと認知されているようです。

これらを踏まえると自分が手に入れたのは第二か第三世代のクラベと推測していますが、持っている2本を見比べてみるとコーティングの色がそれぞれ異なっていたり、内部の細かい違いは自分の想像以上に多いような気もします。

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私見ですが今でこそ安価なイメージの定着したプローセルですが、自分の記憶ではツァイスサイズのアイピースが販売の主体だった頃はH(ハイゲンス)、K(ケルナー)、Or(オルソ)が殆どで、プローセル(PL)の名を前面に押し出したアイピースが販売され始めたのは割と新しい印象で高級接眼レンズと位置付けられているものもありましたが、プローセルが当初この高性能、高級設計のイメージが付与されていたのはクラベやブランドンの存在が大きかったのではないかと推測しています。

造りの特徴的な面としてアイレンズから距離のあるアイガードが備わっており、適切なアイポイントからの観望をサポートすると共にアイレンズを汚れる事を防ぎ、迷光をブロックする役目も果たします。アイレンズの表面はフラットで、視野レンズ側もフラットに見えますが、クラベの非対称プローセルはZeissのA.ケーニヒが設計した視野レンズ側が凸面の非対称プローセルが原型との噂もあり、自分の考えではクラベの視野レンズも凸面になっているのではと予想していましたのでこれは意外でした。もしかすると目に見えないレベルの曲率を持っている可能性も否定できませんが。

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バレル側から覗くと先述したパウダーコーティングが丁寧に施され、各パーツの削り出しも丁寧でトータルの製造品質はかなり良い印象です。また見掛け視界は31.7mm径のクラベのカタログのスペックの一覧を見ると、焦点距離12mmの場合視野環径が10.7mmとなっているので10.7/12×180/π≒51°と計算上なります。

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見え味に関してはやはり手持ちの12mmクラシックアイピースの中でもトップクラスで、解像度、コントラスト、迷光処理何れも高いレベルでバランスの良さを感じさせる、例の12mmランキングでは普通にSランクに入る性能と感じますが、このアイピースの入手と近い時期に発売されたタカハシの高性能プローセル、TPL-12.5mmと見比べると総合性能では僅差でTPLが上回るようにも感じられました。

個人的にはTPLが発売された今、このクラベを(性能面に期待して)追い求める意義は若干薄れてしまったようにも感じますが、間違いなく現在でも第一線級の性能を有しており、この歴史あるアイピースを車で言えばクラシックカーをドライブするような気持ちで観望するのも趣味の楽しみ方として格別なものがあるかも知れません。

タカハシ TPL-12.5mm [天文>機材>アイピース]

タカハシのAbbeシリーズがディスコンになった時(2022年2月)、タカハシHPに「後継製品を鋭意開発中」と書かれていましたがそれから約1年半後、待望の新型アイピースとしてこのTPLシリーズが発表されました。かつてのOrやAbbeはアッベ、LEはアストロプラン設計に対して今回はタカハシ初?のプローセルタイプとの事で今のご時世に新たにクラシックアイピースを開発してくれたタカハシの心意気に応える為にもこれに手を出さない訳にはいきませんでした。

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TPLの製品HP(第一陣HP第二陣HP)を見るとまず、「標準型アイピースの決定版」と銘打たれていて、更にその商品説明には「市場にはプローセルと冠したアイピースが多く出回っていますが玉石混淆なので、実際に覗いてみないとプローセルというくくりではひとえに判断できません」との一文が記されており、この言葉の裏を返せばTPLは「玉」である、と宣言しているに等しく、高屈折低分散のEDレンズを使用した色収差の低減が謳われていて、前シリーズのLEやAbbeとのスポットダイアグラムの比較まで公開されているところを見るとやはりタカハシのこのアイピースに対する並々ならぬ自信が窺えます。

TPLシリーズの当初(2023年7月)のラインナップは12.5mm、18mm、25mmの3種となっており、その後(2023年10月)に6mmと9mmが追加され、TOEシリーズを併せると短焦点から長焦点まで隙間の無い焦点距離ラインナップとなりました。かつてのOrシリーズにはHi-Or、LEにはHi-LEと言った超短焦点側に冠(恐らくは設計も)の異なるラインナップが用意されていましたが、今回成立したTOE-TPLのラインもこれまでのタカハシの販売手法を踏襲した、ある意味タカハシの標準視界アイピースの集大成とも言えるラインナップの様にも思えます(後でHi-TPLが出たらスミマセン)。

販売価格は税抜き価格19000~22000円となっており、今のご時世プローセルをこのお値段では普通には売れないのではと思いますので、タカハシのブランド力が無くては出せなかった、ある意味タカハシだからこそ本気で開発に取り組めたプローセルと言えるかも知れません。

ただ自分が大量の12mmクラシックアイピースを見比べて感じた事は日本製と欧米の有名メーカーのアイピースでは「欧米の壁」とも呼ぶべき見え味の差を感じ、例えばZeissのアイピースであれば設計のよく分からない顕微鏡用であっても総じて良く見える事から、この違いは設計よりも硝材の質や研磨の質への拘りに寄るところが大きいのでは?と感じたので、その部分で大きな差が感じられない国産アイピースが仮に革新的な設計を生み出したとしても果たしてそれだけで勝てるのだろうかと言う思いがあり、これは完全に自分の憶測による主観でしかありませんが、ZeissやTMB、Brandonなどの高性能アイピースにどこまで迫れるのかタカハシのお手並み拝見と言ったところです。

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実物をチェックすると外観はごく普通の国産アイピースと言う第一印象で特別高品質、高級感を感じるデザイン、質感では無いように感じましたが、この造りの真面目さ、丁寧さが感じられる普通さが逆にタカハシらしくもあり、国産アイピースの良さであるとも思います。レンズを観察するとアイレンズや視野レンズに曲率は感じられず、コーティングも普通に見えて外観からは特別な設計、製造精度なのかどうかは推し量る事は出来ませんが、バレル側から覗くととてもすっきりした凸凹の無い内部構造で、多くのクラシックアイピースに見られるレンズ押さえのネジ構造が存在せず、絞り環の内部に複数の遮光環らしきものも見受けられ、艶消し塗装も良質でここは造りに拘りが感じられました。バレルに脱落防止溝が無いのもGOODです。

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4、5回割と良好なシーイング下で月木星土星を他のアイピースと見比べた印象ですが、まず感じたのがピント合わせ時にピントがカチっと合う感触(ピントの山)が他のアイピースより鋭く感じ、木星の縞模様などは安定してシャープネスが高く、この感触、切れ味はTMBモノセンに近い印象です。次に感じたのはバックグラウンドの暗さ、ゴーストの無さで手持ちアイピースの中では特に迷光の少ない部類(ニコンOBrandonと同等以上)と感じられ、模様の詳細が浮き出て見える感覚もCZJ12,5-Oにも引けを取らない印象で、普通っぽい外見とは裏腹に総合性能が非常に高いアイピースに感じられ、今後も見比べの回数を増やしたいところですが現時点では例の自分の12mmランキングではBrandonと同等レベル、国産では初のSランクに文句無しで入れていいと感じました。

正直当初は上述の欧米の壁を超える事は無いだろうと過大な期待をしていなかっただけにある意味今回の結果は(国産でもやればできたんだと言う)驚きで、ここに来てここまでのアイピースを出してきたタカハシの底力には敬服せざるを得ず、長いクラシックアイピースの歴史に新たな傑作アイピースとしてその名を刻むであろう事を予見させます。

顕微鏡用ハイゲンス5x(焦点距離50mm相当) [天文>機材>アイピース]

我が家の太陽双眼観望用の最低倍率用として新たに手に入れた接眼レンズがこちらです。

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これまで最低倍率用としてはAH40mmが活躍していましたが次第に更に低い倍率で観たい欲求が高まり、望遠鏡用のアメリカンサイズ以下のアイピースでは焦点距離40mmより長いものは殆ど見当たらないものの顕微鏡用の接眼レンズに目を向けると5xであれば50mm相当、4xであれば62.5mm相当とより長焦点のものが存在するので狙い目でしたが、この長焦点で覗き易さを考えるとハイゲンス以外では厳しいだろうと思われた為、設計が製品名や外観からは判断し難い顕微鏡用接眼レンズからそれを引き当てるのは難しく積極的に探す事もしていませんでしたがそんな折、ツイッターでシベットさんが顕微鏡用の格安ハイゲンスセットを発掘されたツイートを見てその中に5xの倍率が存在し見え味も良好との事でこれは!と思わず自分も手を出したのでした。

顕微鏡用でバレル径は23mmですので例によってバレルに植毛紙を貼って24.5mm→31.7mmアダプターに差し込んで双眼装置で使えるようにしています。中を開けてレンズ構成を確認すると確かに2群2枚のハイゲンスで外装は金属製で格安接眼レンズの割には造りはしっかりしている印象ですが、中のレンズを支えるスペーサーがプラスチック製ですので長時間の太陽観望で使用する(観望会など)のは少し気を付けた方がいいかも知れないと思わなくもありません(ここまでそのような熱はこない?とも思うのですが)。

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見掛け視界は確かに狭いのですが、自分の環境では太陽フルディスクは問題無く観望出来る必要十分の広さで、期待通り長焦点に関わらず非常に覗き易く像も問題ありません。AH40mmより一段小さく引き締まった太陽像を眺める事が出来て、一時は自作も考えましたがお安く目的を果たせて助かりました。

ユニトロン Konig12mm [天文>機材>アイピース]

このアイピースは海外ではその特徴的な縞々のリングが装着されている事から「ゼブラ(Zebra)」ケーニヒとも呼ばれているシリーズです。個人的には惑星観望用途としてレンズ枚数が少ない2群3枚のケーニヒに兼ねてから興味があり、Konigの名を冠したこのアイピースがユニトロンから販売されていた事を知って気長に2本手に入れたのでした。

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このアイピースの販売時期を手持ちの古い天文ガイドを漁って調べてみたところ、1986年5月号のユニトロンの広告に「NEW」の文字と共に掲載されていましたがアイピース径は24.5mm/36.4mmとなっており、この時点ではアメリカンサイズのものはまだ発売されていなかったようです。

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その後86年10月号にはアメリカンサイズの広告が写真付きで出ていますので今回のアイピースの販売時期はこの頃ではないかと予想されます。

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偏にケーニヒと言ってもその設計は多種多様で普通ケーニヒと言えばアッベの簡略設計とも思える2群3枚、2-1のデザインが一番有名ではないかと思いますが(RKEもこれに近い設計です)吉田先生の望遠鏡光学屈折編にはいくつもの紹介があり、2群4枚のプローセルの改良型などレンズを4枚以上使用した設計も多くあったようです。

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今回手に入れたケーニヒも2-1設計である事を期待していたのですが、CNでこのアイピースが分解された写真を発見し、それによると1-2-1の3群4枚のレンズ設計の様でそこは個人的に少し残念に感じました(^^;この構成のケーニヒは上の吉田先生の書籍によれば広角用の設計と紹介されていて、上記天ガの広告でも見掛け視界60度となっていますが今回手に入れた2本は見掛け視界は実測約40度となっていて、広角モデルは周辺像が余り良くないとの評判も目にしたのでその後敢えて絞ったのかも知れません。

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個人的には12mmアイピースは惑星観望用途なので見掛け視界が狭くても支障はありませんが、もし広角設計のアイピースをわざわざ絞ったのならば中心像はそれ程でも無いのかも知れないと大きな期待をしていなかったのですが実際に木星を見てびっくり、抜群に良く見えます。例のランキングで言えばぱっと見これはSランクの見え味では?と感じましたがその後の見比べで自分的にHC-OrニコンOと同等のA+クラスと判断しました。レンズ枚数が4枚、期待より一枚多かったと言ってもアッベやプローセルと同じ枚数と考えれば大きな問題とはならないのかも知れません。

大井光機 Masuyama 32mm/85° [天文>機材>アイピース]

これまでFL90S-BINOの低倍率用アイピースとしてSWA-32mmACクローズアップレンズアイピースの2本を使い分けていましたが、F9のこの鏡筒との組み合わせであれば以前UF30mmとの対決の結果惜しくも手放したMasuyama32mmの泣き所の良像範囲の狭さが解消されるのでは?と考えて、実視界や見掛け視界の広さの点でもこれまで使用してきた2本を1本にまとめられるスペックが魅力的でしたので再び試してみる事にしました。

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かつてのマスヤマシリーズは見掛け視界は52度が基本でしたが、復刻版は焦点距離が32mm以短は見掛け視界85度、それより長いものは標準視界となっており、設計は3群5枚(エルフレorアストロプラン?)と見掛け視界80度クラスのアイピースとしてはシンプルな構成が特徴的で、やはり周辺像の補正よりは(中心)像質の良さを優先させた割り切った設計の様に思えます。スマイスレンズを使用していないのでバローを併用する双眼装置などで超広角を味わいたい場合にはナグラーUWAシリーズの様な現代設計の同等スペックのアイピースよりも適性は高いだろうと推測します。

実際にFL90S-BINOで使用した時の良像範囲の広さは7~8割と言ったところで以前ミニボーグ50-BINO(F5)で検証した時の印象から期待する程は広くはなりませんでしたが単焦点鏡筒との違いは周辺の崩れの緩やかさで、遠征でも使ってみて周辺像の崩れで観望への集中が切れると言う事が殆どありませんでしたので、問題無く使えるアイピースとしてこれまでの2本から無事置き換わる事になりました。いざ実戦で使用してみるとミニボーグ71FL-BINOでも意外に周辺像の崩れは気にならず、見え味もやはり視野に透明感がありDSOの観望には向いていると感じます。

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気になった点としては視野最周辺が周辺減光していて視野環がはっきりとしない部分で、特にねじ込み式の見口を付けた状態では視野の中央を見ていると全視野が見えている気がしますが視線を周辺に向けると視野がケラレてしまい、最周辺を見るには横から覗き込むようにしないと見えない、見掛け視界がスペック程広く感じない印象でしたので見口を外したところ、アイポイントが宙に浮いて目位置を固定し難くなり視野の陰りが生じ易くはなりますが全視野を見通し易くはなり、見口は観望時には使用せずキャップとして使う事にしました。

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このアイピースはドブなどの短焦点鏡筒で使用した時の周辺像の崩れに耐えられないと拒絶される方も少なくない印象ですが、焦点距離30mmクラスで双眼に使用出来る鏡胴径と2インチをフルカバー出来る視野の広さを両立している点で他に代替出来るものが殆ど見当たりませんので、また周辺像の崩れが気になるかどうかは個人差も大きく、慣れの部分もある(買った当初は気になっても使っている内に気にならなくなる事もある)かも知れませんので、とにかく広い見掛け視界と実視界の両方が(双眼で)欲しい!と少々の欠点は許容出来る人であれば唯一無二のアイピースとして手放せない存在になるかと思います。

Zeiss West Germany Kpl10x/16(顕微鏡用接眼レンズ、25mm相当) [天文>機材>アイピース]

ミニボーグ50-Hα太陽望遠鏡用のアイピースはこれまでAH40mmTV PL32mmを使用していましたが、もう少し高い倍率の出る焦点距離25mmのアイピースが欲しいと物色して入手したのが今回のアイピースでした。

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自分のHα太陽観望は双眼装置バローを使用するのでアイレリーフの長いアイピースを使用するとブラックアウトが生じ易く極めて覗き難い為、アイレリーフの短いハイゲンスが太陽観望には向いていると考えましたがハイゲンスの25mmは新品で買えるところが見つからず、中古だとNikonのH-25mm、五藤のMH-25mm、CZJの25-Hなどが候補に挙がりましたがこれらも滅多に中古市場に現れず、たまに出ても高騰して双眼用に2本揃えるのは困難だった事から焦点距離が25mmであれば顕微鏡用では豊富な10x接眼レンズが流用出来ると考えて、顕微鏡用は2本セットで出品される事も多かった事からこちらに目を向けて物色を開始しました。

顕微鏡用の接眼レンズはレンズ設計が印字からはほぼ読み取れませんので外見から判断する事になりますが、ハイゲンスの特徴としてはまずアイレンズが他設計と比較して小さい事、そして視野レンズがバレル先端に装着されている事などが考えられましたが、現代風のアイピース設計はハイアイ仕様でバレル先端に装着されたレンズはスマイスレンズの可能性もありましたので、ハイアイの概念が薄かったと思われる古い時代の接眼レンズに着目しました。

個人的に惑星観望用の12mmアイピースを集めていて顕微鏡用でもZeissの接眼レンズは非常に見え味が良いと感じていた事から10倍も東西冷戦時代のZeiss接眼レンズに狙いを定めましたが外見からハイゲンスに見える製品は少なく、冷戦時代の製品ともなるとコンディションが悪そうな個体多いのが悩ましいところでやはり望遠鏡用のCZJ 25-Hを気長に探す道も考えましたが、日課のようにebayを物色していたある日外見が上記条件に合致する、何と未開封新品の今回のKplを見つけ一も二もなくポチってしまったのでした。

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この接眼レンズの視野数は16となっていますので見掛け視界は37度となり、Kplはコンペンゼーション(対物の色収差を接眼レンズで打ち消す設計)の接眼レンズと思われますので望遠鏡で普通に使用すれば視野周辺で色収差が発生すると予想されましたが、太陽相手のHα単色観望ではこれは全く問題になりません。気になる設計は視野レンズ側から中を覗いても視野絞りらしきものが見当たらず正か負かの判断が難しいですが、視野レンズとアイレンズの間にレンズも無さそうに見えるのでやはりハイゲンスっぽいように感じました。

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何はともあれ欲しいのはアイレリーフの短さですので実際太陽観望に使用してみるとこれは明らかに他の設計のアイピース(プローセルやアストロプランやケルナーの25mmも試しました)よりアイレリーフが短くブラックアウトの発生は感じられず格段に覗き易いですのでやはりハイゲンスに類する設計なのではないかと推測するところです。見え味に関しても全く問題無く、惑星観望用途のKpl20xもその性能は自分的に折り紙付きですので(但しこちらはハイゲンス系では恐らくありません)、Hα太陽観望用の25mmアイピースとしては個人的に最適に近いものが手に入ったのではないかと満足しています。

賞月観星 UWA16mm [天文>機材>アイピース]

R200SS-BINOで使用するアイピースは現在UW9mmSSW14mmXW20SWA32mmの4本となっていて、一方APM12cm双眼で使用するアイピースはXWA9mm→SSW14mm→XW20と言った具合で使用するアイピースをなるべく共通化していましたが、先日APM12cm双眼用の最低倍率用のアイピースをES24mmに変更した事で倍率の間隔的にXW20、SSW14mmが使い難くなったと感じた為、悩んだ結果XWA9mmとES24mmの間を埋めるのに適した焦点距離、見掛け視界のアイピースとして採用したのが今回のアイピースです。

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アイピースはなるべく複数機材間で使い回すのが自分の信条でしたが、R200SS-BINOとAPM12cm双眼で最低倍率用のアイピースを共通化出来なかった事でそれぞれ別個のラインを保有する事になり、結果として更にアイピースが増殖する事になりました。つくづく我ながら度し難いと思います(汗。

それはさておきこのUWAアイピースは結構歴史の長いアイピースで自分の知る限りではWO(WilliamOptics)のUWANアイピースが最初で焦点距離ラインナップは4mm/7mm/16mm/28mmとなっており、この後笠井でUltraWideAngleシリーズとして同等品が販売されました。これがもう10年以上前の事です。

WO UWANシリーズ
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笠井 UWAシリーズ
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そしてこれらのアイピースが一度市場から姿を消して暫くした後、装いを新たに賞月観星やアイベルから再販売されたのが今回のUWAアイピースと認識しています。海外でもMeadeや米オライオンなど多数のディーラーからも同じスペック、似たような外観のアイピースがリリースされており、恐らく世界中で姿形を変えて販売されている中身は同じOEMアイピースなのだろうと推測するところです。

見え味ですがSWAアイピースもそうですが息の長い中華アイピースはやはり基本性能は高いものが多い印象で、今回のUWA16mmもAPM12cm双眼(F5.5)で星を見る限りでは星像も周辺像も良好(良像範囲は9割~)で普通に不満無く使えるアイピースの印象です。賞月観星の商品説明ではナグラーType6の性能を目指したと書かれていましたが、ナグラーにはType5の16mmが既に存在していますので当初こちらのコピーでは?と自分的に推測していましたが、実物を見てアイレンズの大きさがナグラー16mmより一回り大きく、アイレリーフも長く、外観寸法も異なり、そもそもレンズ構成が4群7枚とナグラー16mmの4群6枚と違っていますので確かにこれはType6の16mm版と言える意欲的なアイピースの様に感じました。視野最周辺像はやはりナグラーが上回る印象ですが、覗き易さはこちらが上回っている様に感じます。

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このアイピースはアメリカンサイズで80度クラスの見掛け視界を持つ条件で最大限の実視界を確保したいと考えた場合最有力となるアイピースで(WS20mmと言う例外がありますが短焦点鏡筒との組み合わせでは周辺像は崩れが大きく、またピント位置が大きく手前側のアイピースの為双眼望遠鏡では合焦しません)、ナグラーはちょっと手が出ないと考える方にはイーソスに対するXWAと同様、コストパフォーマンスを考えれば買ってまず文句は出ない、正にプアマンズナグラーと呼ぶに相応しいアイピースと言えると思います。

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また最近の大きな動きとしてこのUWAシリーズに焦点距離10mmと13mmが新たにラインナップに追加されました。中華アイピースで一度リリースしたシリーズに追加のラインナップが入る事は稀な事だと自分は認識していましたので、これはこのシリーズの優秀さ、評判の良さを示す証左と言えるのかも知れません。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

賞月観星UWA16mm
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Explore Scientific ES24mm/68° [天文>機材>アイピース]

APM12cm対空双眼鏡がアメリカンサイズのフル口径のアイピースでもケラれない事が分かった事で、最低倍率用に実視界が限界まで取れる長焦点広角アイピースが欲しいと物色した結果手に入れたのがこのアイピースでした。

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アメリカンサイズのフル口径のアイピースと言えば手持ちでTV PL32mm(視野環径27mm)を持っていましたが自分的に惑星観望では狭視界は気にならないのですがDSO観望では耐えられない事が分かり、今回見掛け視界60度以上で極力広い実視界が確保出来る条件で探した結果以下のアイピースも候補となり実際に見比べてみました。

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この条件では以前所有していたTVのパンオプ24mmが見え味において最強である事は多分疑いが無かったのですが、昨今の円安で恐ろしい価格となってしまい(現時点6万6千円)次点候補としてのアイピース選びとなっています。まずは室内環境でミニボーグ50(F5)で見比べたところでは、

・見掛け視界
ES24mm=ハイペリオン24mm>UF24mm>PF-25mm
・良像範囲
ES24mm(80%)>PF25mm(75%)>UF24mm(70%)>ハイペリオン24mm(60%)

APM12cm対空双眼鏡(F5.5)で見比べた印象では、

・良像範囲
ES24mm(ほぼ100%)=PF25mm(同左)=UF24mm(同左)>ハイペリオン24mm(90%)
・星像の良さ
ES24mm>=UF24mm>=ハイペリオン24mm(FPXフィルター使用)>=PF25mm

と言った印象です。

バーダーのハイペリオン24mmは視野絞りがバレル内径一杯を使用しており実視界は一番広く、像質も素直で室内環境では一番中心星像が鋭いと感じたのですが良像範囲は他のアイピースより若干狭い印象で、また難点としてピント位置がかなり手前側のアイピースで、APM12cmではそのままではピントが出ず、笠井のFPXフィルター併用でぎりぎりピントが出ましたがバレル端にフィルターを付けているせいか視野が若干ケラれてしまい、この部分で今回は脱落となりました。

笠井から最近販売されたプレミアムフラットフィールドを謳うPF-25mmですが、他のアイピースと見比べたところ公称値で同じ見掛け視界のUF24mmより少し狭く感じました(60度位?)がその分室内環境では良像範囲が広く感じ、この中では安価ながらフラットフィールド性能は中々高いと感じました。また今回見比べたアイピースの中では圧倒的に軽量で、3群4枚のケーニヒ設計との事ですので恐らくスマイスレンズも入っていませんので双眼装置との相性は一番良いかも知れません。

賞月観星のUF24mmは見掛け視界はES24mmやハイペリオン24mmより少し狭いですがやはりフラットフィールド性能は高く、室内環境では中心像のシャープネスはハイペリオン24mmの方が僅かに上回るかと感じましたがAPM12cmで実際の星を見ると逆転する程像質が良く、視野周辺隅々まで星が点で非常に優秀な見え味と感じました。

上記3種の見比べでUF24mmの見え味が満足行くものだったので採用し掛かったのですが、この後でES24mmの存在をtwitterでアドバイスされて思い出し、今となってはそれ程新しいアイピースでもなかったので大きくは期待していなかったのですが、今回見比べて公称値通りの見掛け視界の広さで、驚いたのはフラット性能の高さで良像範囲はUF24mmよりも広く星像も文句が無く、APM12cmでピントも余裕でこれ程優秀なアイピースが何故これまで話題とならなかったのかが少し不思議に感じる程で、今回環境ではパンオプ24mmの代替として文句無く合格点があげられるアイピースとして即採用となり散財した甲斐がありました。

このアイピースのアイレリーフは公称18.4mmで見口を立てた状態で覗くと丁度良い覗き易さになります。鏡胴径は56.2mmで双眼の使用も問題無く、重量も329gとXW20よりも若干軽量です。

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視野環径の公称値は27.2mmとなっており、パンオプ24mmの27mmよりもより攻めた設計に好感が持てます。これでAPM12cmでは実視界2.47度の視野が得られるようになり、より楽しめる散光星雲、散開星団が増えました。

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Explore ScientificはかつてTVに真っ向勝負のラインナップで彗星の如く現れたメーカーで、現在の製品群は、

・ES52° Series(3mm/4.5mm/6.5mm/10mm/15mm/20mm/25mm/30mm/40mm)
・ES62° Series(5.5mm/9mm/14mm/20mm/26mm/32mm/40mm)
・ES68° Series(16mm/20mm/24mm/28mm/34mm/40mm)
・ES82° Series(LER4.5mm/4.7mm/LER6.5mm/6.7mm/LER8.5mm/8.8mm/11mm/14mm/18mm/24mm/30mm)
・ES92° Series(12mm/17mm)
・ES100° Series(5.5mm/9mm/14mm/20mm/25mm/30mm)
・ES120° Series(9mm)

と言った非常に豊富なラインナップとなっており、中には見掛け視界120度のアイピースや3インチアイピースなどTVを超えるスペックの製品も出しており、広角アイピースの開発に非常に意欲的な姿勢が見て取れます。

今回初めてES製品の実物を手に取りましたが、製造品質は最近中華広角アイピースとしてスタンダードな存在となりつつあるXWA、UWA、SWAと比較すると一段上で、アイピース一つ一つにシリアル番号が刻まれているなど、性能面だけでなく品質面も重視するメーカーの姿勢が窺えます。

残念ながら現在はES製品は徐々に市場から姿を消しつつありますが、中華鏡筒や中華アイピースの安かろう悪かろうのイメージが払拭されつつある今だからこそ、意欲的な高級志向の中華アイピースとして見直されても良いシリーズかも知れません。

12mmクラシックアイピース対決2022 [天文>機材>アイピース]

今回ランキングの評価ポイントは、

1、中心像で惑星(特に木星)の表面模様が良く見えるかどうか
2、周辺像の悪化具合
3、覗き易さ、迷光処理、見掛け視界
4、製造品質

と言った4つの項目を7:1:1:1位の割合で評価しています。前回までは1の中心像の見え味のみで評価していましたが、2、3、4の性能が悪い場合見え味にも影響する事があり、中心像はとても良く見えるけれども他の要因が悪さをして評価の邪魔をする、と言う部分も総合評価に加味する事にしました。

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このランキングを公表する前に強調しておきたい事はランキング的に下の方に位置したアイピースでも問題なく良く見える、決して性能が低い訳ではない、と言う事です。アイピースの見比べ、ランク付けは本人にとっては本当に楽しい作業でこうして結果を公表したくはなりますが、そのせいで特定のアイピースにネガティブな印象を与えてしまったり、評価が一人歩きしてしまうのは望むところではなく、あくまで主観的なランク付けである事は強調しておきたいところです。

また今回のランクの違いを言葉で表現するなら、

・SSランク:極めて良く見える
・Sランク:非常に良く見える
・A+ランク:すごく良く見える
・Aランク:とても良く見える
・A-ランク:かなり良く見える
・B+ランク:普通に良く見える
・Bランク:まずまず良く見える

と言った具合でかなり曖昧、抽象的なものとなり、実際の見え味の違いもこの様な微妙な差でしかありませんが、「良く見える」事が共通している点も強調したいところです。

《SSランク》
TMB SuperMono12mmモノセントリック1群3枚30°31.7mm 
CZJ PK20x(10)アクロマートハイゲンス3群4枚?46°東独 30.0mm
《Sランク》
Brandon 12mmプローセル2群4枚45°米国31.7mm
CZJ 12,5-Oアッベオルソ2群4枚40°東独24.5mm
ZWG Kpl20x37°西独23.2mm
LOMO K20x41°23.2mm
・Leitz Periplan GF20xケルナー?3群5枚?53°?23.2mm
《A+ランク》
Nikon O-12.5プローセル2群4枚45°日本24.5mm
笠井 AP12.5mmアストロプラン3群5枚50°日本31.7mm
笠井 HC-Or12mmアッベオルソ2群4枚42°日本31.7mm
ユニトロン Konig12mmケーニヒ3群4枚40°日本31.7mm
Leica 20x/1255°独?30.0mm
自作 Hastings12.5mmモノセントリック1群3枚°日本31.7mm
《Aランク》
Pentax O-12アッベオルソ2群4枚42°日本24.5mm
Meade SP12.4mm(JP)プローセル2群4枚52°日本31.7mm
タカハシ LE12.5mmアストロプラン3群5枚52°日本31.7mm
国際光器 HD-OR12.5mmアッベオルソ2群4枚42°日本31.7mm
・五藤 MH-12.5mmミッテンゼーハイゲンス 2群2枚43°?日本24.5mm
Kenko 銀色PL12.5mmプローセル2群4枚50°中華31.7mm
自作 Kepler12mm ケプラー1群1枚10°中華31.7mm
《A-ランク》
・谷 Or12.5mmアッベオルソ2群4枚44°日本31.7mm
タカハシ MC Or12.5mmアッベオルソ2群4枚42°日本24.5mm
Celestron Omni PL12mmプローセル2群4枚52°中華31.7mm
Nikon UW20x69°日本30.0mm
・Olympus G20X56°日本30.0mm
自作 Dollond12mm(Ver.K) ドロンド1群2枚20°中華31.7mm
《B+ランク》
EO RKE12mmリバースドケルナー2群3枚45°米国31.7mm
・GSO PL-12mmプローセル2群4枚50°台湾31.7mm
LongPerng PL12.5mmプローセル2群4枚55°台湾31.7mm
・ビクセン Or12.5mmプローセル?2群2枚43°日本24.5mm
《Bランク》
・Meade MA12mmケルナー2群3枚40°日本?31.7mm

※注1)CZJはCarl Zeiss Jenaの略称です。
※注2)ZWGはZeiss West Germanyの略称です。(勝手に付けました)
※注3)EOはEdmund Opticsの略称です。

《Sランク寸評》
アッベでもないZeissの顕微鏡用接眼レンズのPK20xをランキングトップとする事は当初は躊躇するものがありましたが、最近アイピース好事家の間で長焦点ハイゲンス+バローの高倍率性能が見直される向きもあって、スマイス入りのアクロマートハイゲンスとも言えるこの接眼レンズを自分の眼を信じてトップに据えたのは間違いではなかったかもと安心しているところです。木星の模様に関しては何度見ても他より良く見えると感じる自分にとってはお宝接眼レンズです。とは言え元は顕微鏡用ですので望遠鏡用として使用すると周辺像が悪化するなど完璧なアイピースとは言えず、その点ではTMBやBrandonは天体用アイピースの完成度として上回っていると感じます。

今回Sランクに入ってきたLeitzのPeriplanは少し気難しいアイピースで望遠鏡との相性が余り良くないのか中心を外れると色が出易いのですが、フローティングエフェクト感のある独特の見え味で中心像は抜群に良く、キャラクターとしてはPK20xに近い印象です。一方LOMOはZeissの描写に近い印象で中心像は一歩及ばないかも知れませんが周辺像が良好で癖が無く使い易い接眼レンズです。

西独ZeissのKplも疑いなく良く見える接眼レンズで中心像はCZJ 12,5-Oに比肩し、トータルバランスでBrandonとLOMOの中間のような完成度の高さがあります。12,5-Oは着色、明るさ、迷光処理の点で多少の減点要素がありますが模様を細かく見せる性能だけはとにかく高く、中心像だけでなく周辺像もほぼ完璧な点が顕微鏡用とは一線を画すところで、経緯台での観望やスケッチで威力を発揮するアイピースです。

《A+ランク寸評》
自作Hastingsは少し手前味噌な評価な気もしますが、レンズそのものは国産のトリプレットで非常に優秀な見え味でこの位置は妥当と判断しています。笠井の2本は12mmアイピースを蒐集し始めた初期から所有しているアイピースですが、本数が増えてもその地位が揺らぐ事が無く、未だに国産トップクラスの見え味の印象です。ニコンOも極めて優秀で、ニコンバイアスが効いているとも言えなくもないですが、とにかくバックグラウンドが暗い、透明感のある見え味は特筆するものがあります。Leicaの20x/12は55度の準広角クラスの接眼レンズの中では一番見えるように感じ、見え味だけでなくアイレンズが大きく目位置にも寛容で覗き易い点も加点要素としました。最近加わったユニトロンのKonigですが予想以上の見え味、特に像のキレが印象的で国産アイピーストップクラスの評価としました。

《Aランク寸評》
ペンタOは国内外問わず非常に評価の高いアイピースでこのポジションにランク付けするのはかなり悩ましいものがありましたが、自分的には木星の模様を見ていてすごく見えると感じますが、ものすごく、までは感じる事が少ない印象でこの位置に落ち着きました。但しこれぞオルソと太鼓判を押せる均一な視野、覗いていてストレスを感じない癖の無い見易さでは傑出しており、PENTAXらしいバランスの良さが天体用アイピースのお手本とも呼べる、今回挙げたアイピースの中で評価基準となる一本を選べと言われたらこのアイピースを挙げるかと思います。

HD-ORは中身は同一かと予想したHC-Orと比べると僅かに差があるように感じましたが、それでも予想通りの高水準な見え味で、現行品で手に入る国産アッベオルソとして誰にでもお勧めできる良質なアイピースと思います。Meade SPとタカハシLEは相変わらずリファレンス的なポジションのアイピースでバランスが良く、覗いていて安心感を感じます。五藤MHはやはりハイゲンス独特のアイレンズの小ささ、アイレリーフの短さが若干足を引っ張っており、あまりレンズに目を近づけたくない自分的には見ていてややストレスを感じるところもありますが、見え味に関しては文句を付けるところはありません。

ケンコー銀色PLもバランスの良い見え味で製造品質も悪くなく、性能が十分ながら中華製で多少雑に扱っても良い観望会向けのアイピースとしてこれまでOmniPLを主に使用していましたがその地位はこちらに移りつつあります。自作ケプラーは中心像だけはこのランクより一段上かも知れませんが性能を引き出す条件が他のアイピースより厳しい点、そして余りにも狭い見掛け視界も覗く意欲を失わせるところで減点しています。

《A-ランク寸評》
谷オルソとタカハシMC OrはAランクと比べると描写が若干大人しい(強いて言えば立体感の乏しい)印象でこの位置としました解像度の高い高性能アイピースである事に疑いの余地はありません。ニコンUWはこの視野の広さと見え味の良さをバランスさせている点に改めて凄いと感じさせる接眼レンズで顕微鏡用に手を出して一番の当たりだったと思う程気に入っています。天体用アイピースでこの接眼レンズの真似が出来る製品が見当たらず、ニコンの顕微鏡用接眼レンズ開発に懸ける本気度が伝わってくるようです。オリンパスG20Xも海外の準広角顕微鏡用接眼レンズと比べると周辺像の崩れは少なく中心像も良好で、バランスの良い使い勝手の良さが好印象です。自作ドロンドは3種類程自作しましたが、このケンコーの銀色PL6.3mmを使ったこのVer.Kが一番良く見えると感じ、このポジションとしましたが、やはり見掛け視界の狭さが足を引っ張っています。

《Bランク寸評》
RKEは歪曲が顕著で、視野周辺で木星が楕円に大きく歪むのが見る度に気になるのでこの位置としましたが、それでも中心像は問題無く良く見え、ユニークな設計も魅力的な個人的にお気に入りのアイピースです。LongPerngプローセルも惑星の観望においては周辺の歪曲が少し気になる印象ですが中心像は良好で、特筆すべきは広角プローセルながら周辺の星を点に見せる性能が高い点で、ここは同じ準広角でも歪曲の補正に重点を置いた顕微鏡用とは設計思想の違いを感じさせる部分で、惑星は元よりDSO向きの準広角クラシックアイピースとして活躍する場面も少なくありません。

GSOやビクセンOrも問題なく見えますが、悪く言えば平凡な描写で個性に乏しく、自分の中では積極的に使う理由が余り見当たらない点でこのポジションとしましたが、普通に良く見える真面目に作られた良質なアイピースですので手元に残っており今回のランキングに入れています。MA12mmは個体差が大きく感じられ軸が中心に出ておらず双眼では調整しないと見え難い点、ゴーストが目立つ点など完成度が今一つと感じますが中心像そのものは問題は無く、真面目にケルナーの改良を試みた意欲的な設計でたまに覗いてみようかと思わせるこちらも不思議な魅力あるアイピースです。

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最近の天文twitter眼視勢の動向としては宝石鑑定用などのルーペのアイピースへの流用が静かなブームとなっている模様です。自分も食指が動いたのですが顕微鏡用接眼レンズの20倍は焦点距離12.5mm相当ですが、ルーペの焦点距離は「250mm÷(倍率-1)」ですので20倍のルーペの焦点距離は約13.2mmとなってしまう為手が出せず仕舞いでしたが、こうした他の分野の拡大レンズを天文用に流用する事で思わぬ発見をする事があり、アイピースの可能性を広げる試みとも言えますので自分も固定観念に囚われず、こうした貪欲な姿勢を見習いたいと思うところです。

タカハシ MC Or12.5mm [天文>機材>アイピース]

古いツァイスサイズのアイピースでオルソの名を冠していても必ずしもアッベではなくプローセルやケルナーですらオルソとして販売されているものもあった様子で、手持ちの12mmクラシックアイピースで言えばペンタOは改良アッベですが、ニコンOは改良プローセル、ビクセンのOrもプローセルが多い(焦点距離によってはアッベもある様です)事からタカハシのOrはどっちなのだろうかと言う点は気になる部分でした。

アッベがプローセルより必ずしも高性能とは限らないかも知れませんが、やはりアイピース好きの自分としては現在ありふれたプローセルよりも製造難度や希少性も高いアッベに魅力を感じてしまうところがあり、タカハシのOrもアッベである事を期待して調べていたところ、このアイピースを分解している方のHPが見つかってそちらの写真を見るとアッベである事が分かり一安心(?)しました。

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タカハシのOrは、タカハシのメーカーHPによれば、1971年の4月に新型オルソシリーズとして5mm/7mm/12.5mm/25mm/40mmが発売され、その後1972年の6月に9mm/18mmが追加された模様です。更にその後1978年12月にマルチコーティング化されたとの事でこのタイミングで「MC」の名前を冠したのだろうと推察します(ゴム見口を採用したのもこのタイミングかも知れません)。更に1985年6月にはHi-Or2.8mm/Hi-Or4mmがラインナップに追加されたようです。その後新シリーズのLEアイピースが登場してもこのアイピースはしぶとく残り続け、2000年代初頭まで天文ガイドの広告に載っていました。LEも相当なロングセラーでしたがこちらも負けていなかったようです。

今回手に入れたのはマルチコートモデルの方で、「実用 天体望遠鏡ハンドブック(川村幹夫著)」によればMC Orはレンズ全面に6層のマルチコートが施され、ゴースト、フレアの減少、コントラストの向上、清澄な視野の実現と性能アップが図られているとの事で、アイレンズを見ると青緑色の深みのあるコーティングが印象的です。

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見掛け視界の公称値が調べても分からなかったのですが、絞り環径をノギスで測ると約9mmで例によってここから見掛け視界を算出すると約41.3度となり、他のアイピースと覗き比べるとZeiss 12,5-O(40度)より大きく、公称42度のペンタO-12や笠井HC-Or12mmとほぼ同じ見掛け視界ですので、これは42度と言っても差し支えないだろうと思います。

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惑星の見え味は全く自然で癖のない、良質な国産アッベの印象で文句の付けどころが無く、長期間に渡りタカハシ鏡筒の付属品として高性能を引き出す役割を担っていた訳ですから悪かろうはずがありません。ラインナップの内望遠鏡の付属品となっていたのは7mmと18mmが多かった様子で、中古が比較的安価で手に入り易いですので、良質なアッベオルソを手に入れたい方には狙い目かも知れません。

ケンコー Sky Explorer 銀色プローセル12.5mm [天文>機材>アイピース]

12mmクラシックアイピース蒐集で低廉な中華プローセルを加えていく中で、ヤフオクでも頻繁に出品される銀色の外観が特徴的な、相当昔から見掛けるこのアイピースの見え味を確かめてみたくなり今回手に入れてみました。

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このアイピースは海外ではその見た目通り通称「Silver(銀色)」プローセルと呼ばれており、ケンコーやビクセンの安価な望遠鏡の付属品となっていた事でまともに使われずにヤフオクで出品される事も少なくない不遇?なアイピースと言えるかも知れません。

このシリーズの焦点距離ラインナップは6.3mm/7.5mm/10mm/12.5mm/17mm/20mm/25mmとなっており、中でも望遠鏡の付属品となっている事が多い6.3mm、10mm、20mm、25mmの中古での入手は容易ですが、7.5mmと17mmは他のシリーズではあまり見掛けない焦点距離で少しレア、そして個人的に手に入れたかった12.5mmは珍しい焦点距離ではありませんが中古では殆ど見掛けた事が無く、もしかするとこのシリーズの中では最も必要とされていない(笑)焦点距離なのかも知れません。

その様な事情から12.5mmの中古を狙っていたのですが機会が訪れないので新品の購入も検討しましたが実はこのアイピース、新品では結構なお値段で8千円以上のプライスが付いており、この価格では正直「低廉」の範疇を超えてしまうので入手を躊躇っていたところ、海外で比較的安く販売しているところが見つかってわざわざ個人輸入で手に入れる事となったのでした。

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見え味に関しては一般的には恐らく先入観からか高い評価はあまり見受けられませんが、マニアな人の中にはこのアイピースを高評価している方も見受けられ、自分が惑星観望に使用した印象でも中心像、周辺像、迷光処理など優秀でバランスが取れており、国産アイピースと比べても特に悪いと感じるところは見当たりません。中華クラシックアイピースの中でも製造品質が良く感じられ、他の焦点距離もこのクオリティで設計製造されているならば、やはり侮れない性能を秘めたシリーズと言えるかも知れません。個人的にはゴム見口の無いフラットトップな形状も好みです。

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今の国内販売価格を見る限り新品購入を人にお勧め出来るかと言えば微妙ですが、状態の良い中古品を格安で手に入る機会があるならば狙っても損はしないアイピースと言えると思います。


スコープタウン AH40mm [天文>機材>アイピース]

ミニボーグHα太陽望遠鏡用の最低倍率用のアイピースとしてこれまでMeade SP40mm(日本製)を使用していましたが、見え味は文句ありませんでしたが目位置が相当にシビアでフードを自作したりと工夫していましたが、もう少しアイレリーフが短いアイピースであればより覗き易くなるのではと考え、アイレリーフの短さには定評がある(?)ハイゲンスを試したくなり、見つけたのがこのアイピースでした。

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スコープタウンにはこのアイピースの十字線ありモデルと無しモデルの2種類が販売されており、今回購入したのは観望用ですので十字線の無いモデルです。このアイピースは2群3枚のアクロマートハイゲンスで純粋なハイゲンスではないせいか、アイレリーフの公称値が35mmと結構長いのが懸念材料でしたが、SP40mmと見比べて格段にアイレンズから近い位置で覗く事が出来、35mmは無さそうに感じます。

見掛け視界に関しても公称値33度との事ですがTMBモノセン12mm(公称30度)と見比べると若干狭く、30度無いのでは(28度位?)と感じました。ただ視野レンズは24.5mm径のバレル内径をフルに使用しているようです。

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余談ですが恐らくこのアイレリーフ公称値は見掛け視界が狭いので目を離しても全視野が見える、と言う意味でのアイレリーフ表記では無いかと思われ、実際アイレリーフをこの様に定義されているところも見受けられますが、個人的にはブラックアウトなどを生じない適切なアイポイント(射出瞳)までの距離をアイレリーフと考えています。

前者の定義ですと同じアイピースでも見掛け視界が狭ければ狭いほどアイレリーフが伸びる事になり、逆に同じアイピース(絞り環径)でもバローを使用するとアイレリーフが伸びる、と言う現象も説明が付かない事になり、自分は光学理論には詳しくありませんがアイレリーフを単に全視野が見える(最遠)距離とは言えないだろうと考えるところです。

その点で自然に覗く事が出来る、と言う意味でのアイポイントまでの距離はSPよりもAHの方がずっと近く、実際の太陽観望で使用してみると狙い通り劇的に覗き易くなりました。目位置に寛容でブラックアウトもし難くなりましたのでSPでは不可欠だった自作フード無しでも覗けるようになりました。

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今回の太陽観望の用途においてはAHの見掛け視界の狭さも全く問題は無く、見え味も文句無しで、これにより太陽観望の低倍率用のアイピースはこちらに置き換わる事となりました。太陽観望にはハイゲンスが向いていると言われる事がありますが、これは貼り合わせレンズを使用していないので熱でレンズが壊れない意味合いで語られる話と認識していましたが、このハイゲンスのアイレリーフの短さが太陽観望においては覗き易さを向上させる意味でも適しているのはないだろうかと思わせる今回の試みでした。

尚念の為、太陽観望は非常に危険を伴いますので十分な知識無しでは行わないでください。このアイピースを使用する太陽望遠鏡は特殊な望遠鏡ですので、普通の望遠鏡で太陽を見る事は絶対にお止めください。失明します。

UW9mm 68° [天文>機材>アイピース]

R200SS-BINOでの最高倍率用アイピースとして当初XWA9mmを使用していましたが、自作したヘリコイド付きの接眼部には少々重く鏡筒の仰角によっては無視出来ないたわみが生じてしまう為、同じ9mmでもう少し軽く、安価でそこそこ広角なアイピースは無いものかと探して見つけたのが今回のアイピースです。

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SVBONYなどでも扱われている中華アイピースと恐らく同じと思われますがレンズ構成は4群6枚との事で、見掛け視界は68度と十分に広角で、重さも実測107gとこれであれば接眼部に負担が掛かる事はまずありません。周辺像をミニボーグ50を使用した室内環境でチェックすると歪曲は視野周辺まで感じられず、星が点像で見える意味での良像範囲は視野の8割から崩れ始め9割から大きく崩れる感じですが、F5の対物で見ている事を考えれば十分に優秀で、バローを入れて合成Fが7強のR200SS-BINOでは周辺まで崩れは感じませんでした。アイレリーフも公称13mmとなっており、ブラックアウトなども生じず普通に覗き易い印象です。

このアイピースの焦点距離ラインナップは6mm/9mm/15mm/20mmとなっていますが、自分的にはこれを見てスコープタウンやBORGでかなり以前から販売されていた中華広角アイピースと同じ製品かと考えたのですがこちらは見掛け視界が66度と今回のシリーズとスペックが僅かに違います。実は今でも今回の68度のシリーズとは別に66度のシリーズも販売されていますので別物なのかも知れません。

何れにしてもリーズナブルで良質な中華アイピースと言った印象で、当初ナグラー9mmを買い戻すか、DeLite9mmなどの購入も検討していましたが今回の自分の要求にはこれで十分で、究極性能までは拘らない方には問題無くオススメ出来るアイピースと思いました。

SVBONY アイピース 接眼レンズ 天体望遠鏡用 9mm 68° 31.7mm径
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Zeiss West Germany Kpl20x(顕微鏡用接眼レンズ、12.5mm相当) [天文>機材>アイピース]

冷戦時代にZeissが東西ドイツで分かれていた時代の西ドイツ側のZeissで製造された顕微鏡用接眼レンズです。

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東ドイツ側のCarl Zeiss Jena(略してCZJ)の望遠鏡製品は民生品も販売されていたのに対し、西ドイツのZeissからはアマチュア向けの製品は製造されておらず、こうした顕微鏡用の接眼レンズを流用する方法でなければ西独Zeissのレンズで星を眺める事は難しいかと思われます。その点で貴重な見えを味わえる接眼レンズと言えるかも知れません。

レンズ形式は不明ですが、KplのKはコンペンゼーション、plはプラン対物向けの接眼レンズと解釈すれば、絞り環が視野レンズより対物側に設置されている事からやはりケルナーに近いデザインなのではと推測しています。また絞り環径をノギスで測ると8mmですので見掛け視界は約37度と算出しています。因みにこの接眼レンズは2本1セットで入手しましたが、片方の接眼レンズにはスケールが内蔵されていて、星見に使う上でスケール版が絞り環に接着されていたのを剥がす一手間が掛かっています。

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惑星観望における見え味は本当に素晴らしく、我が家の12mmアイピースの中でも文句無しのトップクラスです。CZJの12,5-OPK20xに比肩し、優秀な国産アイピースと比較しても一段模様が詳しく見える驚異の見え味で、Zeissの接眼レンズには特別な何かがあると思わせる、元々Zeissに強い想い入れを持っておらず、強い期待もしていなかった(失礼)自分にそう感じさせる程確かな実力を持った接眼レンズと評価しています。

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勿論この接眼レンズは天体用ではありませんので周辺像は多少崩れますがPK20x程ではなく、コーティングのお陰か迷光もそれ程感じないトータルバランスでも非常に優れた接眼レンズの印象です。何度も書いていますが周辺像に関しては天体用の12,5-Oが完璧です(もしくはペンタO)。

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東西ドイツ統一後のZeissでは天体用アイピースとしてZAOが市販された一方、顕微鏡用接眼レンズは自分が探す限りでは20xは存在しなくなったので、この焦点距離に拘るならば冷戦以前の製品に頼らざるを得ませんが、東西どちらでも手を出しても文句の出ない実力を有していると個人的には確信するところです。

AstroStreet SWA32mm [天文>機材>アイピース]

焦点距離32mm、見掛け視界70度の2インチ広角アイピースで恐らく笠井のSWA32mmと同じ製品かと思われます。賞月観星のSWA原点シリーズも中身は同じではないかと予想するのですがこちらはツイストアップ見口が装備され個人的には単なるゴム見口より好みなのですが重量と鏡胴径が若干嵩む模様で、今回は双眼での使用が前提で少しでも軽いものが欲しかった事情から最安値だった事もありAstroStreet扱いのものを選びました。

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何故似たようなスペックのUF30mmを持っているのにこのアイピースが必要になったかと言えば、双眼望遠鏡用で使用している笠井の31.7mm径MC天頂プリズム(改)でより低倍率広視界を得る為に、2インチアイピースのバレルを細工する事で直結出来ないかと考えたのがきっかけで、バレル先端までレンズが詰まっているUF30mmには一切改造が施せないのでこの部分がスカスカと思われたこのアイピースに白羽の矢が立ちました。

天頂プリズム側はアイピースホルダーを外すとM42のオスネジが出てくるように作りましたので、かつて36.4mmのねじ込み式のアイピースがありましたが同様にこれをM42ねじ込み式に改造する事でアメリカンサイズの限界を超える視野の広さを目指し、このアイピースのバレルを外すとM48のオスネジになっていた事から、そこに42mm→48mmステップアップリング、M42メスの継手リングを取り付ける事で形にする事が出来ました。

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このアイピースは2インチで可能な最大視野を確保するスペック「ではない」事が逆に奏功し、M42のリングの内径とこのアイピースの絞り環径がほぼ同じでケラレが発生しない、M42のねじ込み式としては最大の実視界を確保出来るアイピースとなっています。但しこの方法ではダイアゴナル側の射出口径不足によるケラレが発生する可能性がある為、ダイアゴナルとアイピースの距離を極力(30mm程度)開ける事でこれを回避しています。

尚この状態から更にM42オス-36.4mmオスの変換アダプターを接続すれば36.4mmのねじ込み式アイピースとして使う事も恐らく可能です。上の写真の状態で340gとXW20より軽い位ですので、36.4mmねじ込み式に対応したダイアゴナルをお持ちの方には使えるアイピースの一つの選択肢として有用かも知れません。

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UF30mmと比較するとミニボーグ50-BINOでは良像範囲がUFが9割に対してSWAは7割程度と差がありますが、これがF5.6のミニボーグ71FL-BINOでは最周辺までほぼ点像、当然よりFの長い他の双眼望遠鏡でもほぼ100%の良像範囲で正直周辺像は余り良くなさそうな印象を持っていたのでこの結果は意外でした。SWAはレンズ枚数が少ない事もあってヌケが良い様に感じられ、癖の無い気持ちの良い見え味で安価な中華広角アイピースに抱いていたイメージを払拭する程の良質な見え味にショップの「自信を持ってお勧めする」との宣伝文句にも思わず納得です。

国際光器 Fujiyama HD-OR12.5mm その2(見え味編) [天文>機材>アイピース]

このアイピースと笠井のHC-Orは設計は同一かも知れないと前回推察しましたが、HC-Orと比べてピント(絞り環)位置が対物寄りでピントが出し易い事、また脱落防止溝が無い点が個人的に使い勝手がとても良いのでその後2本目を購入しました。

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双眼での木星の模様の見え味に関してはHC-Orと谷オルソの中間位かな?と言う印象ですが、ただ正直あっても「かも知れない」程度の差で、既にディスコンのHC-Orへの思い入れ補正が掛かっている疑いも否定できず、正直まともにとても良く見えるアイピースで文句を付けるような要素はありません。

手持ちの12mmクラシックアイピースの中ではリファレンス的な堅実アイピースと言ったところで、プローセルならMeade SP、アストロプランならタカハシLE、これらに並ぶアイピースとしてアッベならHD-ORと安心感、信頼感を持って使える位置付けの純国産アイピースとなっています。

中華製のプローセルも正直良く見えるのですが、製造品質面でやはり国産アイピースは及ばない印象で、最近の中華アイピースも雑さはかなり無くなってきましたが、それでもこのアイピースの様な上品さを感じる事は個人的にありません。古き佳き国産クラシックアイピースの造りの真面目さが残っている現行品では希少なアイピースだと思います。

ところで先日同じく希少な国産クラシックアイピースとして現存していたタカハシのAbbe、LEシリーズがディスコンのニュースが突如流れました。両者ともとても評判の良いアイピースなだけにとても驚きましたが、自分的にはこのニュースを見てかつて笠井のHC-Orがディスコンになった時の状況を思い出しました。これは販売者側の判断ではなくOEM元の都合が原因ではないかと考え、当時HC-Orと並んで手に入り易い国産アッべとして認知されていた谷オルソにも影響があるのでは?と感じ谷オルソを何本か急遽購入しましたがやはりその後まもなくディスコンとなってしまったのです。

タカハシAbbeとHD-ORではスペック面で必ずしも同一ではありませんが、同時期に販売開始された(BORGやサイトロンと共に)事からOEM元は同じメーカー(大井光機)ではないかと個人的に推測しているのですが、それであれば次はHD-ORが危ないのではと思わなくもありません。谷オルソは現行品だった頃は非常に地味な存在で、現代風のアイピースが市場を席巻し始めた当時では見向きもされない部分すらありましたが、ディスコンになった後によくある事ですが国産アッべの良さが再評価され、中古相場が急騰しプレミアが付く程になった経緯を見ていますので、正直谷オルソよりHD-ORの方が国産アッべとしての完成度は高いと感じていますので、ディスコンともなれば同じように再評価される可能性は十分にあり、買い煽りではありませんが、現行品で手に入る内に興味のある方は早めに確保した方が良いのかも知れません。

タカハシのニュースを見ると後継製品を鋭意開発中、ともなっていますので国産アッべの灯が消えない事を祈ります。

Series 500 Plossl 12.5mm [天文>機材>アイピース]

典型的な格安中華アイピースと言った趣のこのプローセルですが、twitterのフォロワーさんのシベットさんのブログLambdaさんのブログで好評価されていて関心が湧き、例によって12.5mmがラインナップに存在した事から取り寄せてみました。Amazonで「Plossl 12.5mm」で検索するとこのアイピースが出てきます。

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本体の造りはセレストロンのOmniプローセルやGSOプローセルに比べると若干雑ですが、レンズにキズやゴミの混入などは見受けられず、製造品質としてはまずまず及第点と言えるレベルです。

このアイピースの海外での評判はそれ程多くはありませんでしたが、印象に残ったのは見掛け視界が狭いと言う話で、惑星用として使う分にはそこは気にはならないポイントで、むしろ見掛け視界が狭いアイピースは周辺まで良像で中心像も優れているものも少なくない経験から、逆に期待するところもありました。

しかし届いた12.5mmを覗いてみてびっくり、想像より、と言うより一般的なクラシックアイピースより広い見掛け視界を持っており、見比べるとSterlingPL(55度)と同等の広さがありました。この後同じSeries500のPL30mmを手にする機会がありましたが、こちらは事前の評判通り一般的なPL30mmよりは大分狭い見掛け視界で、焦点距離によって見掛け視界が大きく異なるある意味中華製らしい統一性の無さが感じられました。これだとシリーズ一律の評価はもしかすると難しいかも知れません。

12.5mmに関して惑星観望に使用した第一印象は評判通り、自分が予想したより良く見えると感じました。中華アイピースにありがちな迷光がそれ程目に付かず、バックグラウンドが暗く保たれており、中心像のシャープネスもOmniプローセルやGSOプローセル、ややもすると国産アイピースにも引けを取りません。

周辺像に関してはSterlingPLと崩れ方の性格が違うと感じたので、ミニボーグ45EDII(F=7.22)を使い、室内環境で崩れ方を比べた結果が以下です。また見掛け視界55度クラスの準広角クラシックアイピースと言う部分で共通するニコンの顕微鏡接眼レンズのE20xも比較対象に加えてみました。

 Series 500 PL12.5mm Sterling PL12.5mm     E20x    
 歪曲収差 
 非点収差 
 良像範囲 80%95%75%
 周辺減光 


歪曲収差に関しては顕微鏡接眼レンズのE20xが圧勝で手持ちの全12mmアイピースの中でもトップクラスの収差の少なさでこれに比べると劣るもののSeries500はこの見掛け視界の天体用アイピースとしては歪曲は少ない部類のように感じます。SterlingPLは比較的収差が大きく、木星などが視野周辺に位置すると楕円に歪みます。

その一方で非点収差、ここでは視野周辺まで点像を維持出来るかの性能を示しますが、この性能ではSterlingPLが視野最周辺までほぼ点像で他を圧倒しています。Series500とE20xはどっこいどっこいで視野周辺では点像にはなりません。良像範囲もSterlingPLが広く、また周辺減光に関してはSeries500は視野環がややはっきりしない見え味と感じました。

総評としては周辺像に強いのはSterlingPLで歪曲を多少犠牲にしても星像を崩さない点で準広角の天体用アイピースとしてかなり優秀で、流石に中華アイピースの中でも気合を入れて作られているだけの事はあると感じました。E20xは歪曲だけ突出して優れているのはやはり顕微鏡用の性格かも知れませんが、天体用でもこれを活かした使い道を見つけられれば輝ける接眼レンズと思います。Series500はこれらに比べると標準的な準広角アイピース(12.5mmに関しては)と言った趣ですが性能面は概ね良質と言え、何より圧倒的にリーズナブルな価格を考えれば買っても損をしないアイピースと言えると思います。

自作 Kepler 12mm(単レンズアイピース) [天文>機材>アイピース]

今回はセレストロンのSR4mmを流用したケプラー式のアイピースを自作してみました。

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ケプラー式とは言ってみれば凸単レンズでレンズ構成は1群1枚、これ以上簡略化のしようが無い究極シンプルなアイピースです。但し見掛け視界は10度程で、長いF(F30以上)の鏡筒で無ければ実力を発揮できない相当にピーキーな設計(?)ですが、個人的な運用では双眼装置にバローを併用するのでF値の問題はクリアー可能で、ごく狭い見掛け視界も惑星観望に限定すれば実用可能となり、この究極に少ないレンズ構成でどの様な惑星像を見せてくれるのか、期待と不安が入り混じりながら自作方法を模索していました。

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以前ボールレンズではなくケプラー式のアイピースの自作を考えた際、ドロンドをプローセルの半分を使って自作したように、単レンズならラムスデンの半分を使う事で自作できないかと検討したものの、二系(二群)からなる光学系の合成焦点距離をf、前群レンズの焦点距離をf1、後群レンズの焦点距離をf2、レンズ間隔をdとすると、

f=f1xf2/(f1+f2ーd) ・・・①

の式が成り立つ事は以前書きましたが、プローセルの様に前群と後群がほぼ接している場合はd=0と近似でき、更に前群と後群が同じシンメトリカルな設計であればf1=f2と出来る(前群と後群が同じ焦点距離)のでこれより、

f1=2xf ・・・②

が導かれ、つまり前群(もしくは後群)の焦点距離は合成焦点距離の2倍、例えば6mmのプローセルの半分を使えば12mmのドロンドが出来上がる公算になりますが、ラムスデンの場合通常は一定のレンズ間隔(d>0)が存在するのでラムスデンの半分を使えば倍の焦点距離のケプラーに、とは単純にならない事から狙いの焦点距離の単レンズを調達するならやはりEOから取り寄せた方が早く確実かなと考えていました。

そんな折twitterのフォロワーさんのLambdaさんのブログを眺めているとセレストロンSR4mmの分解記事が目に入り、ここでアイレンズと視野レンズの間に入ると思われるスペーサーの厚みが思いの外薄い(=レンズ間隔が狭い)事に気が付いて、またこのアイピースの実質的な焦点距離は6mmとの事でしたので、アイレンズと視野レンズの設計は違うとの事でしたが、むしろそれであればこのどちらかの焦点距離が12mmに近い可能性があるのではないかとの期待が生じて実際に見て確認したくなりました。

以前よりは若干値上がりした模様ですがそれでも一つ千円以内で入手出来、早速バラすと一見平凸レンズに見える視野レンズ、そして薄い両凸に見えるアイレンズが取り出せました。これらをそれぞれ倍率を確認したところ、視野レンズの方はやや倍率が高かったですが、アイレンズの方はほぼ12mmでビンゴとなり、更に幸運な事にレンズ径が6mmだった事から以前ドロンドを作った時に調達して余った6mm径のスペーサーがそのまま利用出来、視野レンズを外す代わりにこのスペーサー(つや消し塗装済)を入れる事でこの鏡胴をそのまま活用した、ケプラー12mmアイピース自作の見通しが立ったのでした。

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覗いた第一印象は予想はしていたものの見掛け視界の想像以上の狭さで、惑星観望限定としても実用の限界に近く、モータードライブによる自動追尾が必要なのは当然として、我が家のベランダ観望では極軸合わせは適当なのでこれでもじわじわ視野から外れて行きます。木星を300倍弱で見ると視野は木星の視直径の5倍位しかありませんが、良像範囲に関しては合成F30程度ある環境の為か割と視野周辺まで像の崩れは少ない様に感じられました。

肝心の中心像の見え味は全く普通に良く見え、木星を見ても国産アイピースの上位陣に比肩する素晴らしい像で意外過ぎて思わず笑いがこみ上げた程です。個人的にそもそもレンズ1枚で本当にアイピースとして機能するのか?と疑心暗鬼な部分が先入観としてありましたが、ここまで見えてしまうとこれまで多種多様な12mmアイピースを必死に蒐集してきたのは一体何の為だったんだろうと少しやるせない気持ちにさせられました(^^;

但し手持ちの12mmアイピースとの見比べではこのケプラーでもツァイスの接眼に勝てるか?と言えば微妙で木星の模様などはまだツァイスの方に軍配が上がる様に感じます。やはりレンズ一枚では収差補正もへったくれもありませんので複数のレンズを緻密な設計で組み合わせる事で単レンズを上回る、例えば多少明るさを落としてもコントラストを向上させる、もしくは結像性が上がり解像度も高まると言った効果を生み出している可能性もあり、そもそもレンズ(硝材)の種類、グレード、研磨精度などと言った品質面で見え味が大きく左右される事も大いに考えられます。

それでも条件さえ整えれば単レンズでも十分な見え味は提供可能であり、これであれば古の天文学者もそこそこまともな観測は出来ていたのではないかと、レンズの品質に問題が無ければこのアイピースの設計が足を引っ張る事はそれ程無かったのではないかと感じました。

そうとは言えやはりこの超絶狭い見掛け視界や使用条件は観望の妨げとなったであろう事も大いに予想され、このアイピースに慣れていたならハイゲンスなどは正に超広角アイピースと感じられたに違いなく、見え味も大きく変わらないのであればこうした設計、便利なアイピースに置き換わっていったであろう事は想像に難くありません。今回自作は実用性はさておき古典アイピースの発展の歴史に触れられた気がしたのが大きなメリットで、アイピースの奥深さを知る自身にとっての糧となったような気がしました。

LOMO K20x(顕微鏡用接眼レンズ、12.5mm相当) [天文>機材>アイピース]

LOMO(レニングラード光学器械合同、ЛОМОと表記)はロシアの光学機器メーカーで、Wikiによれば20世紀初頭よりそのルーツが存在し、第二次大戦後にはドイツに勝利した旧ソ連がツァイスの技術も取り込んで更なる発展を遂げ、カメラ、望遠鏡、顕微鏡などを開発製造し、今尚ロシアの宇宙開発、軍事面においても影響力を誇るロシア有数の光学工場との事です。今回はこのメーカーの顕微鏡用の接眼レンズを入手する事が出来ました。

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このメーカーの一般の天文ファンにも馴染み深い話と言えば、昭和の天文ファンなら誰もが知っているアメリカのパロマー天文台の口径5mのヘール望遠鏡を超える口径6mの反射望遠鏡BTA-6が1976年にゼレンチュクスカヤに建設され、その後長らく世界最大の望遠鏡として君臨していましたがこの望遠鏡を開発、建造したのがLOMOとの事で高い技術力が伺えます(望遠鏡としてあまり実力は発揮出来なかった様ですが)。

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LOMOの接眼レンズにはメーカー名が表記されていない事も多いですが、倍率を意味する「x」の表記が小さく上付きで書かれているのが識別する一つの手掛かりとなっています。レンズは見たところノーコートでこれで星がちゃんと見えるのか一抹の不安がよぎりますが、反射光を眺めるとレンズ表面が水面の様にとても滑らかそうに見えます。バレル径は23.2mmです。

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顕微鏡用接眼レンズの設計には謎が多いですが、この接眼レンズの様に若干古めの製品には「K」の文字を冠している事が多く、これは手持ちの顕微鏡接眼レンズではツァイスのPK20xやKpl20xにも当て嵌まります。このKの意味がずっと謎でしたが、Twitterのフォロワーさんのぼすけさん、Lambdaさんから教えて頂き、このKが「コンペンゼーション方式」を恐らく意味する事が分かりました。望遠鏡用アイピースで例えるならアクロマートハイゲンスに近い設計のようです。

このコンペンゼーションとはオリンパスのHPに解説が載っており、

1、コンペンゼーション方式
コンペンゼーション方式とは、対物レンズで発生する収差を、結像レンズ側で打ち消しあう補正方法です。
2、コンペンゼーションフリー方式
コンペンゼーションフリー方式は、対物レンズ、結像レンズそれぞれが個々に収差補正を完結する方式です。

との事で、PK20xやKpl20xなどが中心像は抜群に優れていますが周辺像に崩れが若干目立つ見え味でしたので、やはり望遠鏡の対物レンズとの相性が良くなかったと考えれば合点が行きます。

このLOMOの見え味に関しても周辺像はそれなり(それでもPKやKplよりは崩れは少ない)ですが、やはり中心像は非常に良く、木星の模様の詳細を見せる性能はツァイスのアイピースと遜色ありません。個人的にはしっとりとした柔らかい描写と言う印象で、迷光処理の面でも目障りな迷光は感じられず(横からの光の入り込みは弱い)、またロシア製と言う事で予測していた像の着色も特に感じられません。総じて良く見える接眼レンズと言えます。

自作 Hastings 12.5mm [天文>機材>アイピース]

EO(Edmund Optics)で販売されている3枚玉アクロマートレンズ、ヘイスティングス・トリプレット(Hastings-Triplet)の焦点距離12.5mmの商品を取り寄せて1群3枚のアイピースを自作してみました。

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このレンズの直径は8mmでしたので、8mmのレンズが収まっているアイピースの筐体を流用しようと探した結果、以前見え味の良さと面白い設計ながらも製造品質の余りの悪さに評価を断念して部屋に転がっていたDatyson PL12.5mmのレンズの収納部分が丁度8mm径で、レンズを入れた隙間を埋める8mm径の中空スペーサーをミスミで調達する事で(内部はつや消し塗装しました)31.7mm径のアイピースとして使用出来るヘイスティングスを自作する事が出来ました。

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天文ファンであれば1群3枚のアイピースと言えばヘイスティングスよりモノセントリックの名前がまず頭に浮かぶかと思いますが、今回はこのモノセントリックの開発の経緯について自分なりに調べてみました。

まず最初のモノセントリックはヒューゴ・アドルフ・スタインハイル(Hugo Adolph Steinheil)によって1883年頃に考案され、厚いガラスを貼り合わせた非常に特異な外観ですが、レンズの各曲面が同一の中心を持っており、モノセントリック(Mono-Centric:単一の中心を持つ)と呼ばれる由来となっています。

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この断面図を見て単一の中心、と言われてもピンと来ないかも知れませんので、図解すると、

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この様なイメージになります。(※実際はこの初期のスタインハイル・モノセントリックでも厳密には中心は一つではなく複数持っていたと言う話もあります)こうして見るとボールレンズアイピースの発展型、と捉える事も出来るかも知れません。

このスタインハイルの設計を改良したのがチャールズ・ヘイスティングス(Charles Sheldon Hastings)で、単一の中心を持たない、厚みが薄く左右対称な、シンプルな形状ながら優秀な設計として有名となり、視野は狭いながらも惑星用アイピースとしては不動の地位を築いたTMBのスーパーモノセントリックの原型とも言われています。

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一方Zeissでもモノセントリックのアイピースを開発していますが、これは1890年にエルンスト・アッベとポール・ルドルフによって開発されたトリプレットが原型となっており1911年にZeissの特許を取得して、その後製品化されており、現在では高いプレミアがついています。

形状としてはヘイスティングスとZeissのモノセントリックはとても似通っており、開発時期もほぼ同時期ですので開発競争などもあったのでは無いかと想像しますが、現在モノセントリックと呼ばれる1群3枚のアイピースは実は本来の意味(単一の中心を持つ)でのモノセントリックではなくヘイスティングスがその原型としてマニアには認知されているようです。

ですのでTMBスーパーモノセントリックもモノセントリックと呼称するのは語弊があるような気もするのですが、Zeissもそう呼ぶ様にこの様なトリプレットをモノセントリックと呼ぶのは慣習となっていたのかなと想像しています(モノセントリックと呼ぶのは間違いだ!と主張する方もいます)。

今回EOでヘイスティングス・トリプレットを単品で販売されている事を知って、モノセントリックを自作出来る!と考えたのですが、モノセントリックの名前の陰に隠れて中々表に出てこないヘイスティングスの名前をせめてこの自作アイピースには冠してみようと思ったのでした。

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実際の見え味ですが木星で他のアイピースと見比べると予想以上にかなり良く見える印象で、このレンズが入っていた袋のラベルにはMade in Japanの文字が記されていましたが、他の日本製の優秀なアッベやプローセルに比べても遜色無い、もしくはそれを上回る見え味です。モノセントリックと言えばゴーストが出易い印象で、TMBモノセンはコーティング技術で発生を抑えていますが今回のヘイスティングスはシングルコーティングとの事でしたので発生を覚悟していましたが実際には特に目立つ事も無く、一応迷光処理も施した効果も出たのかストレスの感じない観望が可能です。

今回のレンズは設計が如何に優れていたとしても特に望遠鏡用のパーツとして販売されているものではありませんでしたので、望遠鏡用のアイピースとしての使用に耐える品質、精度を持っているのかは未知数で、設計だけに期待して購入するのは一つの賭けでもありましたがその様な心配は杞憂である事が分かり、どちらかと言えば自己満足で作ってみたかったアイピースでしたが期待以上の実力で、今後の観望に向けて力強い武器が加わって楽しみが増えました。

PENTAX O-12 [天文>機材>アイピース]

このSMC PENTAXオルソ(以下ペンタオルソ、もしくはペンタOと呼称)は1980~90年代に製造されていたアイピースで国内は元より海外での評判も未だに高く、最も優れた惑星用アイピースを議論する際に引き合いに出される機会も多い、日本が生んだクラシックアイピースの傑作の一つと言えるかも知れません。

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焦点距離ラインナップは5mm/6mm/7mm/9mm/12mm/18mmで見掛け視界は42度、バレルサイズはツァイスサイズ(24.5mm)となっています。

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設計はtwitterのフォロワーさんのこもロハスさんに見せて頂いた資料(地人書館『天体望遠鏡のすべて'87年版』→その後自分でも手に入れました)にレンズ構成図が掲載されていますが、アッベを発展させたペンタ独自設計で、トリプレットの前群レンズの各曲面も異なるように見受けられ工夫が感じられます。

これ以降のペンタのアイピースはXP、XL、XO、XWと言った撮影用、又は広角やロングアイレリーフのレンズ枚数を増やした現代風高性能アイピースへの開発へとシフトしましたので、このペンタオルソはペンタが本気で作った最後のクラシックアイピースと考えるとマニア心が擽られます。

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またペンタの光学製品には御馴染みのスーパーマルチコーティングが空気に接する全面に施され、アイレンズからは黄緑色の深みのあるコーティング色が見て取れます。

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このアイピースとの出会いはヌプカの観望会でペンタ150EDで見た天王星がこれまで見た事のない凄い見え味で、もう少しシーイングが良ければ天王星の衛星を見る事も可能に思える程で、優秀な15cmアポだとここまで見えるんだと感銘を受け、ブランカ150SEDを購入するきっかけにもなったのですが、この時使われていたアイピースがペンタO-6でこの凄い見え味は鏡筒の性能も去る事ながらアイピースの性能のお陰もあるのでは?と感じたのが、このシリーズに関心を持ったきっかけでした。

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ただO-12を手に入れて我が家の数多の12mmアイピースと見比べた正直な感想を言えばやはりとても良く見えますが、惑星を見た時の中心像の見え味に関してはツァイスやTMBにはちょっと及ばないかな?と言う印象で、やはりツァイスであれば国産オルソと比べて一段木星の模様の詳細が見えてくる感じ、TMBの様な一見して明るく見えると言った際立つ特徴は個人的にはそこまで感じませんでした。優秀で真面目な国産オルソらしい透明感のある見え味、バランスの良さはある意味際立っていますが、そこから一歩突き抜けた個性の様なものが今一つ感じられず、自分の12mmアイピースランキングではA+ランク止まりとなっています。

但しこれは最上級クラスのアイピースと比べての印象であって国産アイピースの中で比べれば普通にトップクラスの見え味で、望遠鏡の性能を引き出すには十分に優秀なアイピースである事には違いありません。海外での評価は自分が思う以上に高く、ヤフオクなどで状態の良い個体が出品されると高確率で海外の業者が入札してきます。そのせいもあって中古相場は完全にプレミアが付いている状態です。

他に気付いたところとしては室内環境で周辺像の崩れ具合をチェックした際に、歪曲収差の無さでは顕微鏡用接眼レンズやCZJ 12,5-Oが最優秀と感じましたが、最周辺まで星を点像に結ぶ性能(非点収差や像面湾曲の無さ)に関してはこのペンタOが更に上回り、オルソスコピックの名に恥じない見え味で、PENTAXの技術の高さ、妥協を許さない姿勢が随所に感じられるアイピースと思いました。

ハイゲンスからの単レンズアイピース自作における焦点距離の選定 [天文>機材>アイピース]

究極にシンプルなアイピースと言えばレンズを1枚しか使わない単レンズのアイピースですが、個人的にはボールレンズに魅せられた一方でやはり元祖と言えばケプラー式望遠鏡であれば両凸レンズになるのかと思います。

ケプラー接眼レンズについての自作、考察についてはtwitterのフォロワーさんのLambdaさんがブログで書かれていますが、ケプラーの単レンズは両凸では無く平凸レンズを使用するアイデアもあったそうで、Lambdaさんはこちらを採用されていますが、ブログにも書かれている様に中心像は侮れない、むしろ独特の素晴らしい見え味との事で、自分も雑に自作した水晶玉アイピースを覗いた印象からしても良く見えるであろう事は想像に難くありません。

その様な訳で自分もケプラーの自作に興味が湧きましたが、ドロンドの場合はプローセルを単に半分にすれば良いと言う自作のし易さがありましたが、ケプラーにはこのアイデアは通用しません。アイピースを自作する時はレンズの調達よりもむしろ筐体、鏡胴の調達に頭を悩ませる事が自分的には多いですが、単レンズを上手く収める筐体の調達に難を感じて結局自作には至りませんでした。

そんな折同じくtwitterのフォロワーさんのnagano kinyaさんがハイゲンスの視野レンズを取り払う方法で単レンズアイピースを自作されて楽しまれている事を知り、確かにハイゲンスであれば視野レンズとアイレンズの保持が別々であり(自分の知る限り)、視野レンズだけを外してもアイレンズも一緒にポロっと落ちる様な事はありませんのでこれは単レンズアイピースを自作する手法としてはとてもシンプル且つ合理的ではないかと思いました。

問題は焦点距離を何ミリのハイゲンスを調達すれば、目的の焦点距離の単レンズアイピースが出来上がるのか、と言う点です。この場合目的の焦点距離は勿論12mmです笑。これを求めてみようと考察したのが今回の本題になります。

まず一つのレンズの焦点距離は誰でもイメージが湧くと思いますが、複数のレンズを使った場合のトータルの焦点距離はどうやって求まるのか、と言う部分が疑問で調べた結果、吉田正太郎先生の書籍(望遠鏡光学・屈折編)にヒントが載っていました。二つの光学系(二系)が光軸上に並んでいる時、前群レンズの焦点距離をf1、後群レンズの焦点距離をf2、前群と後群の間の距離をdとすると、二系の合成焦点距離fは、

f=f1xf2/(f1+f2ーd) ・・・①

となるそうです。今回の場合ハイゲンスですので、f1が視野レンズの焦点距離、f2がアイレンズの焦点距離、dがレンズ間隔として合成焦点距離を求める事が出来ます。

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ここでハイゲンスは倍率の色消しが成立する光学系の為、

d=(f1+f2)/2 ・・・②

の関係が成り立ちます。実際にはハイゲンスのf1:d:f2の比率は4:3:2、もしくは3:2:1との事で、ここから、

f1=2xf2 ・・・③ (視野レンズ焦点距離がアイレンズ焦点距離の2倍)

もしくは

f1=3xf2 ・・・④ (視野レンズ焦点距離がアイレンズ焦点距離の3倍)

と導けます。目的の『視野レンズを外して、アイレンズのみにした時に焦点距離が12mmとなる』、つまりf2=12を代入して求まる合成焦点距離のハイゲンスを調達すれば良い事になります。これらの式から最終的には、

③式が成り立つハイゲンスの場合 → f=4/3xf2

④式が成り立つハイゲンスの場合 → f=3/2xf2

となり、アイレンズのみの12mmの単レンズアイピースとするには、前者の場合16mm、後者の場合は18mmのハイゲンスを調達すれば良い事が解りました。

しかしここで調達に動き出したところで更なる問題が・・・と言うのはハイゲンス(ミッテンゼーハイゲンスでも可)で16mmや18mmのアイピースは中古市場でも余り見掛けないのです。16mmは殆ど見つからず、18mmはたまに見掛けますが、もし買ってみても視野レンズとアイレンズの焦点距離の比が2:1の設計なのか、3:1の設計なのかまでは窺い知る事は出来ません。

一か八かで買ってみて実測してみればどちらの設計かは分かるかも知れませんが、そこまでやるのもなあ・・・と言ったところで二の足を踏んでいるのが今の現状です(^^;

ただお手軽に単レンズアイピースを自作する方法としては可逆的な改造で新たな部品の調達も必要無く、細かい焦点距離に拘らなければ単レンズアイピースの見え味を楽しむ方法としては有用ではないかと思います。

自作50mm水晶玉ボールレンズアイピース [天文>機材>アイピース]

直径50mmの水晶玉を使用したボールレンズアイピースを自作してみました。

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ボールレンズの焦点距離の求め方は、焦点距離をf、ボールレンズの直径をD、硝材の屈折率をnとすると、

f=nD/4(n-1)

として求められ、今回は直径D=50mm、ボールレンズの材料は水晶ですので水晶の屈折率をn≒1.55とすると、焦点距離fは約35.2mmと求められます。

何故いきなりこんなアイピースを作ったかと言えば、かつてクチュールボール(Couture Ball)の名前で知られた光学ガラスのボール玉を使ったアイピースを知ってからボールレンズアイピースに興味が湧いて自作を模索したものの、自分が見比べたい焦点距離12mmのアイピースを作るには上記の式から導くと直径17~18mmのボールレンズが必要で、EOなどで取り扱われているBK7などの光学硝材で作られたボールレンズは直径10mmまでの商品しか取扱いが無く、それ以上のガラス玉が欲しいとなると安価な水晶玉しか入手が難しく、何よりボールレンズを31.7mm径のアイピースとして使用する為の鏡胴の調達が難だったので、とりあえずボールレンズアイピースがどの様な性能と特徴を持つのかを知る上で最も製作が容易な組み合わせを模索した結果、50mmのガラス玉であれば、2インチ(50.8mm)の延長筒に丁度良く収まるのでは?と考えて、Amazonで800円で手に入れた水晶玉に、既に持っていたボーグパーツ、50.8→M57/60AD【7425】に2インチホルダーSII【7504】を組み合わせる事で出来上がったのが今回のアイピースです。

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見た目的にボールレンズを使っている事をアピールする外観に仕上げたい狙いがありましたが、割と思い付きで作ったにしては収まりが良く出来たかと自画自賛しています。2インチホルダーSIIのアイピース固定ネジの先端にはテフロンチップが埋設されているので水晶玉にキズが付けずにホールド出来るのも密かなアピールポイントです。

問題の見え味ですが、ミニボーグ45ED鏡筒に付けて覗いたところ、安価な水晶玉だけに気泡やキズなどが入りまくりですがそこを避けるようにボールの取り付けを調整すると評判通り中心像は割と普通に見えます。目位置も割と寛容で覗き易いです。

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周辺像はそれはもう壊滅的ですがきちんとした視野絞りを作ってあげれば良像範囲は見掛け視界でやはり10~20度程度かと思いますが、惑星観望用としては使えるかも知れません。ネタアイピースとしては合格と言ったところでしょうか。

やはり水晶玉と言えばスピリチュアルな界隈向けに販売されている商品ですので、これを覗く事で運気を呼び込んだり、身体の調子が良くなったり、天体が映し出される事で地球外生命との交信も期待できそうな、霊験あらたかな効能も期待されます。

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冗談はさておきこの品質の水晶玉でここまで見えるなら、きちんと研磨された光学ガラスを使用したボールレンズアイピースであれば相当良く見えるのではないかと知見が深まったのが大きな収穫でした。

Carl Zeiss Jena PK20x/w(10)(顕微鏡用接眼レンズ、12.5mm相当) [天文>機材>アイピース]

我が家の個性豊かな顕微鏡用接眼レンズの中でも一際イロモノ感が漂う外観を呈しています。CZJで無ければ手に入れる事を躊躇したレベルかも知れません笑。

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CZJなので伊達や酔狂で接眼レンズは作らないだろうと判断し、入手してみるとバレル径が30mmと言う事もあって、12,5-Oより設計、製造が新しく感じます。アイレンズのコーティングは恐らくシングルかと思うのですがマルチコートを思わせる深みのあるコーティング色をしており、12,5-Oのコーティングよりは明らかに反射が少なく上質に感じます。

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接眼レンズの後端にはレンズユニットが組み込まれており、スマイスレンズの類にも見えます。

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この接眼レンズを分解してみると、アイレンズ、視野レンズ、後端レンズの大きく3つのレンズユニットに分かれ、それぞれを電灯にかざして反射光の数を数えると、3-2-2と言った具合でした。つまりアイレンズは1群2枚の貼り合わせ、視野レンズは凸単レンズ、後端レンズは凹単レンズと言うトータル3群4枚構成ではないかと思われます。

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勿論望遠鏡のアイピースではこの様な構成は見た事も聞いた事もありません。更に面白いのは視野絞りがアイレンズと視野レンズ?の間に存在しますので、負の接眼レンズ(ハイゲンスの改良型?)、と言う事になるのでしょうか。

またこのままの状態ではバレル長が長くて双眼装置の内部に当たってしまう為、バレルに同焦点リングを取り付ける事で奥まで挿し込まれない様に調整しています。

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この様なヘンテコな接眼レンズが果たして星見に使えるのだろうか?と疑心暗鬼になりながら、それ程大きな期待も抱いていなかったのですが、例によってアポ屈折+Mk-V双眼装置で惑星を見てみるとまたもや意外、他のアイピースとの見比べでは木星の模様の解像力やコントラストの高さでは12,5-Oと同等でコーティングの差でトータルではこちらの方がワンランク上、つまり我が家の数多の12mmクラシックアイピースの中でもトップクラスの見え味と判断しました。但し周辺像は幾分悪化し、良像範囲は5割程度と感じましたが、これはアイピースの性能がどうこうと言うより望遠鏡の対物レンズとの相性の問題の様にも思えます。それにも関わらず中心像は抜群に良く見えるのには本当に驚かされます。

自分の中ではアッベオルソやモノセントリックと言った歴史ある優秀な設計がプラネタリーアイピースの完成形、と言う先入観がどうしてもあるので、この様なよく分からない設計の接眼レンズがそれらに比肩、もしくは凌駕するような像を見せてしまうと、設計以外のファクター、例えばレンズの研磨精度や透過率、均質性などと言った製造条件が、アイピースの性能にとってより重要なのだろうかと考えさせられます。

ツァイスともなればその辺りの気配りも抜かりないでしょうが、こうした製品を作ってしまうツァイスの、最善を目指す為には常識や慣習に囚われない柔軟な姿勢、懐の広さを改めて感じさせられた次第です。

Edmund Optics RKE28mm [天文>機材>アイピース]

RKEのアイピースを調べていて一部マニアに絶賛されている28mmの「フローティングエフェクト(floating effect)」なる見え味がどうしても気になって、手に入れてみました。

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既に手持ちのTVのPL32mmと近いスペックですが、このアイピースに手を出したもう一つの理由として、PL32mmは31.7mm径をほぼフルカバーできる視界の広さを持っていますが、これが逆に対空双眼鏡や双眼装置、正立プリズムと言った接眼側の開口径が最大径より幾分絞られている機材に取り付けるとケラレが生じる為、こうした機材でケラれない範囲でぎりぎり広い視野、低倍率を得られるアイピースとしてこのRKE28mmの見掛け視界45度と言うスペックはより適していると判断した事がありました。

届いたこのアイピースを手に取ってまず中空に向けて覗くと何となく視野が迫ってくるような見え方に普通のアイピースと一味違う印象を持ちました。次にミニボーグ50BINOで昼間の風景を覗くとやはり非常に臨場感や立体感のある見え方をします。

これをTV PL32mmに替えてみるとやはりその様には見えず、所謂PLらしい真面目な、悪く言えば「面白みを感じない」「平坦な」見え味で、このRKEの独特の見え方は単に見口の形状の違いかも知れないと考えて、PL32mmの見口を全部外して覗いてみましたが、やはりRKEの様な臨場感のある見え方にはなりません。比べるとどうしても「狭い穴を覗いている」感じに見えます。

見掛け視界50度のPL32mmと見比べて、45度のRKE28mmは視野が狭く見えるはずですが、一見した時にどう見てもRKEの方が広く見えたので、たまによくあるカタログスペックと実際のスペックが違うパターンでこれは60度位あるだろうと当初本気で思いました。しかし他のアイピースとサイドバイサイドで見比べてほぼ公称値である事が分かり、広く見えたのは錯覚であった事が分かりました。

このこれまで感じたことの無い見え味にこれは結構スゴいアイピースなのでは?と星での見え味にも期待が膨らみ、APM10cm対空双眼鏡で星空を見たところ臨場感、像が迫ってくる感覚がより増したように感じ、違う言い方をすればアイポイントに目を置くとアイピースの存在が消える、と言う表現が近いかと思います。この像のみが見える感覚がフローティングエフェクトと言われる現象なのでしょう。心配していた周辺像も悪くありません。

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これは自分の見解ですが、RKE独特のカルデラ状の見口はきちんとした狙いがあり、やはりアイポイントに目を置いた時に視界周辺のアイピースの枠を目立たなくさせる効果を狙ったものではないかと思われ、RKE28mmではこれが見事にハマって稀有な見え味を実現させましたが、例えばRKE12mmではそこまでの効果は得られておらず、RKE8mmに至っては見口の周囲の山の出っ張りが邪魔で逆に覗き難くさせていると不評を買っているところを見ると、他の焦点距離でもフローティングエフェクトを狙ったものの効果が上手く出せなかったのではないかと推測しています(RKE21mmはどうなのかは分かりません)。

こうして考えると所謂ボルケーノトップ(Volcano Top、略してVTとも呼ばれる。「火山」の意)デザインと呼ばれる谷オルソに代表される見口が山の形状のアイピースもRKEと同様の効果を狙って作られたのかも知れないと思わなくもありませんが、残念ながら谷オルソ、谷エルフレを覗く限りではその様な効果を感じる事はありませんでした。ただ思い起こしてみると谷オルソ25mmはアイレリーフがかなり長く、少し浮いた感じがあったかも知れませんが、それ以前にアイポイントがシビアすぎてまともに覗く事が出来ず手放した経緯がありましたので、RKE28mmのシビア過ぎるとは感じさせないアイポイントの設計も巧みなのではと思わせます。

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その様な訳で自分も思わず絶賛するような感想になってしまいましたが、他の方が同じ様な印象を持つかどうかは個人差があるところと思いますが、自分的には非常に面白い、ユニークなアイピースを手に入れる事が出来て星を見る楽しみが増えたと喜んでいます。

ビクセン SSW14mm [天文>機材>アイピース]

31.7mm径の接眼部を持つ対空双眼鏡/BINO用のアイピースとして、これまで主戦力として使っていたXW20XWA9mmの2本により低倍率のRKE28mmが加わった事からXW20とXWA9mmの間のアイピースが欲しくなり、焦点距離は14mmが丁度良く感じて当初XW14を候補としていましたが、出来れば見掛け視界も70度と100度の中間の80度クラスが望ましいと考えて正にこの要求にズバリ適合するこのアイピースの存在を思い出し、既にディスコンに向けて処分価格となっていたのをこれ幸いと手に入れたのでした。

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事前にネットの評判を見ると目位置にシビアでインゲン豆現象が出易いとの評判が目に付きましたが、確かに目が近過ぎるとブラックアウトが生じ、離れ過ぎると全視野が見渡せない若干の気難しさも感じましたが、アイカップの出来が非常に良いのでピタリと来る位置に調整すれば覗き難さは特に感じなくなりました。

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個人的に気になっていたのは周辺像の崩れ具合でしたがAPM10cm対空双眼鏡で見る限りは視野周辺まで点像でとても収差補正は良好に感じます。何より気に入ったのが素直な像質で、とても透明感のあるヌケの良い像を提供してくれます。

これまで周辺像の収差補正と視野の平坦さ、像質の良さのバランスで、ストレスの少ない見え味と言う部分でXW20が個人的に絶対的な信頼感がありましたが、このSSW14mmも83度のより広い見掛け視界でありながらバランスの良さで負けていません。日本製と言う事もあってビルド品質の面でも非常に優れており、ネットのカタログ写真から受ける印象よりも高級感が感じられ、トータル性能でとても完成度の高いアイピースだと感じました。

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最近コンセプトや製品の長所、ウリが分かり難いとも噂されるビクセン製品ですが、個人的にAPのユニットにしてもA62SSにしてもこのSSWにしても実物を見ると良い物を作っていると強く感じるのですが、発売時の価格設定がどうにも高く見えて敬遠されてしまい製品寿命の終わり際に処分価格となったものが再評価されるパターンが多い気がするのがちょっと可哀想な気がします。折角良い製品を生み出す力は持っているメーカーと思いますので良いループに転換できる事を祈ります。


Leica 20x/12 10446356(顕微鏡用接眼レンズ、12.5mm相当) [天文>機材>アイピース]

天文ファンでもライカと言えばカメラや双眼鏡、フィールドスコープのメーカーとして多くの方に知られた存在ですが、顕微鏡の大手メーカーとしても名が知られており、自分的に顕微鏡用接眼レンズの天文用への流用を考える上でも外せない存在でした。

しかしやはり20倍の接眼レンズとなるとライカと言えども選択肢が少なく、例によってクラシックアイピースに類すると思われるものを物色して今回見つけたのがこの接眼レンズでした。

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この接眼レンズが開発された経緯やどの様な設計であるかなどはやはり調べても自分には分かりませんでしたが、30.0mm径の接眼レンズである事から比較的新しい製品と考えられ、外観を見るとやはりスマイスレンズの類は入っておらず、現代風の設計では無さそうなところを見ると、ニコンのE20xやUW20xと同年代(90年代頃)の製品かも知れません。スペックは20x/12と明記されていますので、望遠鏡換算で焦点距離が12.5mm、見掛け視界55度と導き出せます。

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外観を見て目を引かれるのはアイレンズの大きさで、望遠鏡用の12mmクラスのクラシックアイピースと並べてみても一際大きいです。またコーティング色も黄色系でギラギラと輝いているような、これも望遠鏡用ではちょっとありえない特徴ある外観を誇っています。筐体も金属は一切使われておらず、樹脂製の材質と思われますが、貧弱さや安っぽさは一切感じられず、またこのお陰で非常に軽い(約48g)仕上がりとなっています。

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見え味は例によってアポ屈折にバローを付けた双眼装置で惑星を高倍率で見た印象ですが、一目見てこれは良く見える接眼レンズだと感じました。ヌケとコントラストが良く上質な天文用アイピースと比べても互角以上の見え味に感じます。おまけに見掛け視界も良像範囲も広いですので見え味に妥協せずに経緯台でじっくり眺めたい時には自分の中では最適解に近い接眼レンズとなっています。

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ライカは何故か望遠鏡業界には参入をしていませんので、ライカの光学製品を天文用に流用するにはこうした手段を用いる以外にありませんが、ライカの歴史を紐解くと特に顕微鏡事業(ライカマイクロシステムズ)に関してはこれまで様々な企業(ワイルドやボシュロムなど)と合併して現在のライカグループを構成している様ですので、エルンスト・ライツ直系の開発製品であるかどうかは見抜くのは難しく、ライカの名を冠していても設計思想の異なる製品が存在する可能性がありますが、それらも受け入れる寛容さが必要となるかも知れません。

Edmund Optics RKE12mm [天文>機材>アイピース]

このアイピースは知る人ぞ知る球形マウント卓上望遠鏡アストロスキャンを製造したEdmund Optics(以下エドモンド、もしくはEOと呼称)が設計したアイピースで、自分的にはケーニヒの設計のアイピースに興味が湧いて調べていた時に、この2群3枚構成でケーニヒに近い、逆ケルナーとも言えそうなこのシリーズを見つけました。

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RKEと言うネーミングからしてやはりリバースドケルナーの略では?と一見想像してしまうのですが、このアイピースを設計をしたDavidRank博士曰く、Rank、Kaspereit、Erfleの3氏(敬称略)の頭文字を取ったネーミングとの事です(Rank博士のケルナーと言う説もあるようです)。

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で、こんな設計のアイピースもあったんだで話が終わりそうだったのですが、調べると何とこれが現行品で、今でもEOのHPで普通に買える事が分かり、12mmの焦点距離が存在した事から即座に2本注文してしまいました。RKEの焦点距離ラインナップは8mm/12mm/15mm/21mm/28mmとの事でしたが現在は15mmはディスコンとなっている模様です。

形状はアイレンズの周囲が盛り上がって山になっているデザインが特徴的で、短焦点のモデルはこのお陰で覗き難いとの不満の声もあるようですが12mmは特に問題無く覗けます。ビルド品質は金属加工による微キズが散見されアメリカンな雑さを感じますが中華製のそれとは違い、質感がブランドンにとても似通っていて、安っぽさはありません。

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このアイピースの評判を調べると特に評価されているのは28mmのモデルで、アイレンズから像が浮き上がって、飛び出して見える独特な見え味が特徴的で、これはフローティングエフェクト、フローティングイメージ等と呼ばれている様です。他では得られない宇宙を直接覗き込むような体験が得られるとの事で、この見え味に魅了された方には唯一無二のアイピースとして手放せない存在となっている模様です。

RKE28mmが一部で絶賛されている一方で他の焦点距離の見え味についての情報が殆ど得られず、個人的にRKE12mmにも他の12mmクラシックアイピースでは見られない独特な見え味が得られるのではと期待した部分もありましたが、実際に惑星を見る限りでは特にそうした効果は感じられませんでした。

見え味に関しては短焦点のアストロスキャンとの組み合わせを前提に作られたアイピースとの話もあり、長焦点鏡筒との相性や高倍率での使用には不向きとされる意見も見受けられましたが、確かに合成F30程度の環境で覗いても周辺の歪曲が顕著に見受けられ、木星などが視野の周辺ではかなり楕円に変形します。ただ中心像は優秀で高倍率でも見え味に何の問題も感じられませんでした。

昨年のアイピース見比べでは見え味にこれと言った特徴が感じられなかった事からB+ランクとしましたが、その後の観望でとても見えると感じる時もあって、今はもうちょっと上でもいいかなと感じています。

海外の評判を見ると割と廉価な位置づけのアイピースの印象を受けましたが、その性能を高く評価するマニアの方も少なからず存在し、今では数少ない"Made in USA"の製品と言う事もあって設計もユニークですので、個性的なアイピースを求める方には惹き付ける魅力があるアイピースと思います。

Meade SP12.4mm(日本製) [天文>機材>アイピース]

手持ちの多種多様な12mmのクラシックアイピースを見返した時に、プローセル系に限定すると、独自の改良設計で高性能を目指したBrandonニコンO、そして低廉なセレストロンやGSOなどの中華プローセルに対して、日本製の真面目に作られた、言わばリファレンスと呼べるようなプローセルが無い事に気付き、自分の中でこれに該当するのがテレビューのプローセルでしたが12mmはラインナップされていない為、代替と言う訳ではありませんが、既に20mm40mmを使ってきてその基本性能の高さは自分の中では折り紙付きの、この日本製のMeade4000シリーズ、スーパープルーセル(SP)の12.4mmを加える事となりました。

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他のプローセルと比べるとアイレンズ、恐らく視野レンズも凹面となっているのが特徴で、もしかするとテレビューのプローセルを真似た設計なのかも知れません。現にこの当時はテレビューのナグラー(見掛け視界82度)、パンオプティック(68度)、プローセル(50度)のラインナップに対してMeade 4000シリーズはウルトラワイド(84度)、スーパーワイド(67度)、スーパープルーセル(52度)のラインナップで真っ向勝負を仕掛けていた時期でしたので、設計もテレビューを真似ていたとしても不思議ではありません。

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因みに以前の投稿で触れたようにMeade4000シリーズのスーパープルーセルは発売当初は3群5枚の恐らくアストロプラン設計で、ゴム見口の無いこのタイプは海外ではSmooth Sideと呼ばれています。その後標準的な2群4枚構成となり、ゴム見口が装備された今回手に入れたタイプ(画像では見口を外しています)に変更され、更にその後生産国が日本から中国へと変わっていく事になります。日本製か中国製かの区別は鏡胴かバレルに刻まれたJapanかChinaの刻印の違い以外の外観は同一の為、中古で手に入れる際は気を付ける必要があります。現行品は印字が白となりましたので区別が付き易くなりました。

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性能面で日本製と中国製で差があるかどうかは正直分かりません。製造品質は明らかに日本製が上ですが(中華製SPは一見同じ外見に関わらずかなり安っぽく感じます)、手持ちの他社低廉中華プローセルの侮れない光学性能を見る限り、それ程見え味が変わらない可能性は十分にあると思います。それでも造りの丁寧さでは日本製が圧倒的に上ですので、迷光処理など光学性能以外の部分で優位な部分があるかも知れませんので、ここは日本製に拘りたいと思います。

実際の見え味は惑星を見る限りでは当然と言うかとても良く見えます。ただ自分的にはこのアイピースには多大な期待を寄せていたので、自分のランキングで言うところのA+ランク(ペンタO、ニコンOレベル)に入るレベルではと予想していましたが、何度か見比べてそこまでではなさそうな印象で現時点ではAランクとしました。ただ日本製の良質なプローセルが欲しいと言う自分の要求には十分に適う、当初の目的通りリファレンスとしての役割を果たしてくれているアイピースです。
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