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木星デジタルスケッチ 2021/09/25 [天文>デジタルスケッチ]

この日のシーイングはかなり極上で、大赤斑が見えている木星をスケッチしてみたいと兼ねてから思っていた事から急遽支度をして描いてみました。

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この日はシーイングが止まった時の像は壁に張り付いた絵の様に見えて、大赤斑の中の濃淡やNEB北側のポツポツとした暗斑、大赤斑東側のSEBが二重線に見える様子、大赤斑戸SEBの隙間などかなりの詳細が見えていました。因みに使用アイピースの「OM」は"Own Made"の略で自作アイピースを意味する造語です。

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ここ最近アイピースの性能ばかり気にかけていますが鏡筒、TSA-120の実力の高さを改めて認識した次第で、ここまでの像を提供してくれるこの鏡筒を大事に使おうと改めて感じた次第です。

LOMO K20x(顕微鏡用接眼レンズ、12.5mm相当) [天文>機材>アイピース]

LOMO(レニングラード光学器械合同、ЛОМОと表記)はロシアの光学機器メーカーで、Wikiによれば20世紀初頭よりそのルーツが存在し、第二次大戦後にはドイツに勝利した旧ソ連がツァイスの技術も取り込んで更なる発展を遂げ、カメラ、望遠鏡、顕微鏡などを開発製造し、今尚ロシアの宇宙開発、軍事面においても影響力を誇るロシア有数の光学工場との事です。今回はこのメーカーの顕微鏡用の接眼レンズを入手する事が出来ました。

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このメーカーの一般の天文ファンにも馴染み深い話と言えば、昭和の天文ファンなら誰もが知っているアメリカのパロマー天文台の口径5mのヘール望遠鏡を超える口径6mの反射望遠鏡BTA-6が1976年にゼレンチュクスカヤに建設され、その後長らく世界最大の望遠鏡として君臨していましたがこの望遠鏡を開発、建造したのがLOMOとの事で高い技術力が伺えます(望遠鏡としてあまり実力は発揮出来なかった様ですが)。

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LOMOの接眼レンズにはメーカー名が表記されていない事も多いですが、倍率を意味する「x」の表記が小さく上付きで書かれているのが識別する一つの手掛かりとなっています。レンズは見たところノーコートでこれで星がちゃんと見えるのか一抹の不安がよぎりますが、反射光を眺めるとレンズ表面が水面の様にとても滑らかそうに見えます。バレル径は23.2mmです。

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顕微鏡用接眼レンズの設計には謎が多いですが、この接眼レンズの様に若干古めの製品には「K」の文字を冠している事が多く、これは手持ちの顕微鏡接眼レンズではツァイスのPK20xやKpl20xにも当て嵌まります。このKの意味がずっと謎でしたが、Twitterのフォロワーさんのぼすけさん、Lambdaさんから教えて頂き、このKが「コンペンゼーション方式」を恐らく意味する事が分かりました。望遠鏡用アイピースで例えるならアクロマートハイゲンスに近い設計のようです。

このコンペンゼーションとはオリンパスのHPに解説が載っており、

1、コンペンゼーション方式
コンペンゼーション方式とは、対物レンズで発生する収差を、結像レンズ側で打ち消しあう補正方法です。
2、コンペンゼーションフリー方式
コンペンゼーションフリー方式は、対物レンズ、結像レンズそれぞれが個々に収差補正を完結する方式です。

との事で、PK20xやKpl20xなどが中心像は抜群に優れていますが周辺像に崩れが若干目立つ見え味でしたので、やはり望遠鏡の対物レンズとの相性が良くなかったと考えれば合点が行きます。

このLOMOの見え味に関しても周辺像はそれなり(それでもPKやKplよりは崩れは少ない)ですが、やはり中心像は非常に良く、木星の模様の詳細を見せる性能はツァイスのアイピースと遜色ありません。個人的にはしっとりとした柔らかい描写と言う印象で、迷光処理の面でも目障りな迷光は感じられず(横からの光の入り込みは弱い)、またロシア製と言う事で予測していた像の着色も特に感じられません。総じて良く見える接眼レンズと言えます。

自作 Hastings 12.5mm [天文>機材>アイピース]

EO(Edmund Optics)で販売されている3枚玉アクロマートレンズ、ヘイスティングス・トリプレット(Hastings-Triplet)の焦点距離12.5mmの商品を取り寄せて1群3枚のアイピースを自作してみました。

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このレンズの直径は8mmでしたので、8mmのレンズが収まっているアイピースの筐体を流用しようと探した結果、以前見え味の良さと面白い設計ながらも製造品質の余りの悪さに評価を断念して部屋に転がっていたDatyson PL12.5mmのレンズの収納部分が丁度8mm径で、レンズを入れた隙間を埋める8mm径の中空スペーサーをミスミで調達する事で(内部はつや消し塗装しました)31.7mm径のアイピースとして使用出来るヘイスティングスを自作する事が出来ました。

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天文ファンであれば1群3枚のアイピースと言えばヘイスティングスよりモノセントリックの名前がまず頭に浮かぶかと思いますが、今回はこのモノセントリックの開発の経緯について自分なりに調べてみました。

まず最初のモノセントリックはヒューゴ・アドルフ・スタインハイル(Hugo Adolph Steinheil)によって1883年頃に考案され、厚いガラスを貼り合わせた非常に特異な外観ですが、レンズの各曲面が同一の中心を持っており、モノセントリック(Mono-Centric:単一の中心を持つ)と呼ばれる由来となっています。

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この断面図を見て単一の中心、と言われてもピンと来ないかも知れませんので、図解すると、

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この様なイメージになります。(※実際はこの初期のスタインハイル・モノセントリックでも厳密には中心は一つではなく複数持っていたと言う話もあります)こうして見るとボールレンズアイピースの発展型、と捉える事も出来るかも知れません。

このスタインハイルの設計を改良したのがチャールズ・ヘイスティングス(Charles Sheldon Hastings)で、単一の中心を持たない、厚みが薄く左右対称な、シンプルな形状ながら優秀な設計として有名となり、視野は狭いながらも惑星用アイピースとしては不動の地位を築いたTMBのスーパーモノセントリックの原型とも言われています。

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一方Zeissでもモノセントリックのアイピースを開発していますが、これは1890年にエルンスト・アッベとポール・ルドルフによって開発されたトリプレットが原型となっており1911年にZeissの特許を取得して、その後製品化されており、現在では高いプレミアがついています。

形状としてはヘイスティングスとZeissのモノセントリックはとても似通っており、開発時期もほぼ同時期ですので開発競争などもあったのでは無いかと想像しますが、現在モノセントリックと呼ばれる1群3枚のアイピースは実は本来の意味(単一の中心を持つ)でのモノセントリックではなくヘイスティングスがその原型としてマニアには認知されているようです。

ですのでTMBスーパーモノセントリックもモノセントリックと呼称するのは語弊があるような気もするのですが、Zeissもそう呼ぶ様にこの様なトリプレットをモノセントリックと呼ぶのは慣習となっていたのかなと想像しています(モノセントリックと呼ぶのは間違いだ!と主張する方もいます)。

今回EOでヘイスティングス・トリプレットを単品で販売されている事を知って、モノセントリックを自作出来る!と考えたのですが、モノセントリックの名前の陰に隠れて中々表に出てこないヘイスティングスの名前をせめてこの自作アイピースには冠してみようと思ったのでした。

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実際の見え味ですが木星で他のアイピースと見比べると予想以上にかなり良く見える印象で、このレンズが入っていた袋のラベルにはMade in Japanの文字が記されていましたが、他の日本製の優秀なアッベやプローセルに比べても遜色無い、もしくはそれを上回る見え味です。モノセントリックと言えばゴーストが出易い印象で、TMBモノセンはコーティング技術で発生を抑えていますが今回のヘイスティングスはシングルコーティングとの事でしたので発生を覚悟していましたが実際には特に目立つ事も無く、一応迷光処理も施した効果も出たのかストレスの感じない観望が可能です。

今回のレンズは設計が如何に優れていたとしても特に望遠鏡用のパーツとして販売されているものではありませんでしたので、望遠鏡用のアイピースとしての使用に耐える品質、精度を持っているのかは未知数で、設計だけに期待して購入するのは一つの賭けでもありましたがその様な心配は杞憂である事が分かり、どちらかと言えば自己満足で作ってみたかったアイピースでしたが期待以上の実力で、今後の観望に向けて力強い武器が加わって楽しみが増えました。