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ビクセン R200SS反射双眼望遠鏡 [天文>機材>望遠鏡]

25cmニュートン反射(VX250L)を以ってしてもDSO、特に銀河は存在が確認出来る程度の見え味で、それはそれで満足しているつもりだったのですが、観望会で35cmドブで見せてもらったNGC4565やソンブレロが写真を薄くしたように見えて、やはり銀河も口径があれば見た目も楽しめる対象になりえる事が分かってしまった為、更なる大口径への欲求が高まりました。

しかしながら大口径ドブは自宅の収納環境の問題や何より自身の体力的に扱うのは困難と思われたので、自分の手に負える範疇でDSOが一番見えそうな機材を模索する中で、自分的に双眼観望を前提とするなら中口径の反射望遠鏡で双眼望遠鏡を自作出来れば大口径に双眼装置を使うのに匹敵する見え味が得られるのでは?と思い至り、最終的に出来上がったのがこのビクセンのR200SS鏡筒を使用した反射双眼望遠鏡です(以後R200SS-BINOと呼称)。

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以下、完成に至るまでの経緯を場所毎に記します。

《架台の選定》
AZ-3経緯台は2本の鏡筒の搭載と視軸調整が可能でしたのでこの架台を上手く使えないかと考えた結果、カウンターウェイトを搭載できるL字プレートを用意出来れば、架台上部に2つの鏡筒を並べる事が可能に思えたので、この方向で計画の詳細を練る事になりました。

《鏡筒の選定》
鏡筒の選定はAZ-3に2本の鏡筒を載せても無理の無い重量に留めなければならない制約から口径20cmが限界だろうと判断し、その中でも短焦点でより軽いと思われる20cmF4鏡筒に狙いを定めました。

20cmF4鏡筒で現在普通に入手可能なものは、ビクセンのR200SS、笠井のGINJI-200FN、スカイウォッチャーのBKP200/800の3種が挙げられ、それぞれ、

・価格:BKP>GINJI>R200SS
・バックフォーカス:GINJI>BKP>R200SS
・重量:R200SS>GINJI>BKP

と言った長所と短所があり、当初はバックフォーカスの長いGINJIを検討していましたがやはり重量的に厳しいと感じ、この点で価格が魅力だったBKPも見送り、R200SSはバックフォーカスが短いですがF4なのでバローで焦点を引き出す事を許容し、また中古が多く出回る鏡筒でもあったので価格も抑える事が出来そうな点も選定の後押しとなりました。

但しR200SSは非常にロングセラーの鏡筒ですのでその間に細かい仕様変更が繰り返され、なるべく製造時期の近い個体を並べたい事情から、販売時期が比較的短かったDG(ダークグリーン)鏡筒に目を付けました。尤もこの色が個人的に格好良くて好きだった理由が大きかったのですが。

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《接眼部》
接眼部は当初2インチ対応を考えていたのですが、重量的な問題、合焦機構の問題、最小目幅の問題など解決の難しい課題が多かったのでここも無理せずアメリカンサイズで妥協する事で一気に計画が現実味が帯びました。

使用するダイアゴナルは当初WOのヘリコイド付き正立プリズムを想定していましたが、この構想をTwitterで打ち明けたところフォロワーさんのシベットさんから反射双眼で正立プリズム使用では左右の像が一致しないだろうとの指摘を受けました。これは全く自分には考えが及ばなかった部分で、後日試しにこの正立プリズムで双眼視したところ指摘通り左右の像が90度回転しており双眼視が成り立たず、これを通常の天頂プリズムにすると像が一致します。この原理は今考えても分かりませんが、この事が指摘されなければここで混乱していた事が予想され、先人の方々の知見は本当に有難いと感じました。尚ダイアゴナルに普通の天頂プリズムを使用する事は像が裏像になると言う事ですが、世に出回っている反射双眼は特殊な例を除いてほぼ裏像との事でした(そうだったのか!)。

その様な理由から普通のダイアゴナルを改めて選定する事になりましたが、光路長が短い点と接眼側にヘリコイドを搭載出来る見通しが立った笠井のMC天頂プリズムを採用し、ダイアゴナルのバレル端に笠井のBS双眼装置用の1.6xエクステンダー(+延長筒)を装着する事でバックフォーカスの少ないR200SSでも十分な引き出し量を確保する事が出来ました。

このバローを入れた事でドロチューブの伸縮量に対するピント(ヘリコイド)の移動量は一対一ではなくなり、少しの幅の眼幅調整でも多く量のヘリコイドの伸縮が求められる事からストローク量90mmのM42中華ヘリコイドを見つけ出す事によってアイピースの変更に伴うピントの違いも合わせて吸収出来る合焦機構が構築出来ました。恐らく像回転の問題が無くてもWOの正立プリズムではヘリコイドのストローク(15mm)が全然足りなかったと思われます。但しこの構成で光路長が増した事でバローの拡大率は最終的に約1.8倍となっています。

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《プレート》
かなり頭を悩ませて試行錯誤したのがAZ-3の主鏡筒側に取り付けるプレートの構築でした。当初L字プレートに視軸調整用の微動雲台を搭載するアイデアで検討を進めましたが、試作の段階でテストすると仰角によってどうやっても左右の鏡筒でたわみの差が変動して視軸の維持が困難である事が分かり、視軸調整をAZ-3副鏡筒側の粗動で行うのはこれはこれで困難が予想されましたが、L字の構造を止めて微動雲台も排する事で鏡筒の間隔も狭まり、構造もシンプルとなり、たわみもほぼ発生しないI字プレートの構築が実現出来ました。これはプレートの側面のネジ穴の間隔とアリミゾの取り付けネジ穴の間隔が偶然一致していた事で成立しています。

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またカウンターウェイトを装着させる為にアリガタの先端にウェイトシャフトを取り付ける構造としました。ウェイトはこちら側にビクセンの2.8kgのウェイトを2個、副鏡筒側も1.9kgと3.7kgのウェイトを装着し、これでクランプ無しで手を離してもガクっとはならないバランスの良さも実現しています。

結果としてこのプレートの構成パーツは、

ビクセン規格ダブルブロック締付式アリミゾ
・BORG Vプレート125【3125】
AstroStreet L型マルチプレート(アリガタは撤去、コーナー金具は流用)
・MoreBlue AU003 ビクセン規格260mm自在アリガタ(タカハシM8長穴仕様)
・スカイメモS用ビクセン互換ウェイトシャフト(ヤフオク)

となりました。

また副鏡筒側のプレート(MoreBlue ビクセン規格280mm自在アリガタ)は鏡筒重量を極力抑えたかった事情からファインダーを架台の下側に取り付ける目的で、AZ-3の副鏡筒側の端面にネジ穴が設けられているのを発見してここに小型のアリミゾを装着する事でプレートを介して3cm対空正立ファインダーWideFinder28の二つを搭載しています。またこのBINOは姿勢変更の際に特に副鏡筒側に触れてしまうと視軸がいとも簡単にずれてしまうので、鏡筒に触れずに姿勢を変更する為のガイディングハンドルとしての機能もこのプレートに持たせています。

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《視軸調整》
視軸調整は結局AZ-3に元々備わっている調整機構に頼る事になりましたが、クランプを締める際に視野がずれてしまう点が問題ではあるものの、そのズレの量を予め把握する事でクランプを締めて像が一致する様に視軸を合わせる方法も慣れれば会得する事が出来ました。ただやはりこの機構では微調整が困難な為、惑星を見るような高倍率での運用は捨てています。

《使用アイピース》
高倍率は捨てていますがむしろ低倍率広視野が欲しい局面も多いですので、SWA32mm(45倍、1.56度)をこのダイアゴナルで使えるように改造を施したのはケラレも無く大正解でした。XW20(72倍、0.97度)やSSW14mm(103倍、0.81度)もバランスが良い見え味で、銀河は100倍程度の高倍率を掛けた方がコントラストが上がって見易くなる気がします。

《見え味》
NGC4565やソンブレロの暗黒帯が見える事を期待していたのですがそこまでは確認が難しく、M51やM33等のフェイスオン銀河もうっすら腕が分かる程度で、オリオン座の燃える木も観望会で覗かせてもらったBlanca-102SEDビノよりも薄い様に感じられ、全体として見える事は見えるがコントラストが淡い印象です。ただM82は淡いながらも内部構造が視認出来、かみのけ座を流し見するといくつも銀河が飛び込んできて形状もエッジオンかそうでないかなどはすぐに判別できる見え味で、35cmドブにはやはり及びませんが、25cmの存在確認のレベルからは一歩上の観望が出来るようになりました。

集光力は主鏡の面積に比例しますので、双眼望遠鏡はどの程度上の口径の通常の望遠鏡の集光力と同じかと言えば、双眼望遠鏡の口径の半径をr、通常の望遠鏡の口径の半径をxとすれば、

・πr2×2=πx2

より、

・x=r×√2

となりますので、双眼望遠鏡の√2倍の口径の通常の望遠鏡と集光力はイコールとなり、20cmの双眼望遠鏡であれば約28cmの望遠鏡の集光力と同じ事になり、自分が観望会で見た35cmドブの単眼での見え味には及ばないのはある意味当然と言えます(28cmと35cmでは集光力は1.6倍差があります)。

但し通常の大口径ドブで双眼視するには双眼装置が必要で、更に低倍率を出す為にはリレーレンズが必要になったり、リレーレンズを使わないでバックフォーカスを大きく引き出すとなると斜鏡の大型化が必要になったりしますので、双眼望遠鏡に比べると光量をロスする要素が増える点を加味すれば20cmの双眼望遠鏡は30cm程度のドブに双眼装置を使った場合の見え味と同等になっている可能性もありそうです。また大口径シュミカセに双眼装置の組み合わせは一見お手軽に等倍観望が出来るように思われますが、口径を求める程焦点距離が長くなる為、反射双眼の様な低倍率広視野を得るのは難しく、この部分が反射双眼の大きなアドバンテージと言えるでしょう。

また反射双眼の最大の弱点(?)でもある裏像である点は、DSO観望に於いてはフェイスオン銀河や形状が特徴的な星雲など写真で見慣れた天体は少し違和感を感じる事もありますが、個人的にはアポ屈折に天頂ミラー、双眼装置を使う惑星観望などは裏像である事は全く気にしていませんので、こちらもそこは割り切って使っています。

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今回初めて反射双眼を自作して痛感した事は双眼望遠鏡は小口径でも大口径でも左右の像を一致させる際に求められる視軸の精度(許容されるズレの小ささ)は変わらない点で、よく考えれば当たり前ではあるのですが、口径が大きくなれば指数関数的に鏡筒が重くなるので姿勢変更によるたわみの差によって生じる視軸のズレ(量としてはコンマ数ミリ?)を抑える事は相当困難となり、そうはさせないノウハウは色々あるのだろうとは思いますが、大口径で反射双眼を成立されている方々は正直常軌を逸している(褒め言葉)とすら感じます笑

自分もこのBINOの構築途中でこれは完成しないのでは?と頭を抱える曲面に何度も遭遇し、双眼望遠鏡構築の難しさはパーツをあらかた集め切って最終形態に近いレベルに仕上げないと双眼望遠鏡として機能するのか(視軸が実用レベルで維持できるのか)最終的に判断できない点で、ここが無理となればそれまで集めたパーツが全て無駄になる恐れもあり、戦々恐々としながら最終的には完成に持って行けてホッとした、安堵したと言うのが正直な思いです。

見え味に関してはもう少し銀河(特に暗黒帯)が見えたら嬉しかった思いはありますが、自分の体力で無理なく運用できる重量、所有する小型自動車で無理なく運搬出来、室内保管時に邪魔にならない体積、手動微動が可能と言った点でこれ以上の口径の双眼望遠鏡の自作、運用は自分には無理と思えますのである意味自らの限界に挑んだBINOと言え、それでもストレスを感じずに使える完成度に仕上げられた点はとても満足しています。またトータルで切断や接着等の一切の加工無しに完成出来た点も可逆的な改造を好む自分的には満足度を押し上げているポイントとなっています。

制作期間が構想から2年程掛かっただけに想い入れの深い機材となりそうで、今後の我が家のDSO観望の切り札としての活躍を期待しています。

AstroStreet SWA32mm [天文>機材>アイピース]

焦点距離32mm、見掛け視界70度の2インチ広角アイピースで恐らく笠井のSWA32mmと同じ製品かと思われます。賞月観星のSWA原点シリーズも中身は同じではないかと予想するのですがこちらはツイストアップ見口が装備され個人的には単なるゴム見口より好みなのですが重量と鏡胴径が若干嵩む模様で、今回は双眼での使用が前提で少しでも軽いものが欲しかった事情から最安値だった事もありAstroStreet扱いのものを選びました。

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何故似たようなスペックのUF30mmを持っているのにこのアイピースが必要になったかと言えば、双眼望遠鏡用で使用している笠井の31.7mm径MC天頂プリズム(改)でより低倍率広視界を得る為に、2インチアイピースのバレルを細工する事で直結出来ないかと考えたのがきっかけで、バレル先端までレンズが詰まっているUF30mmには一切改造が施せないのでこの部分がスカスカと思われたこのアイピースに白羽の矢が立ちました。

天頂プリズム側はアイピースホルダーを外すとM42のオスネジが出てくるように作りましたので、かつて36.4mmのねじ込み式のアイピースがありましたが同様にこれをM42ねじ込み式に改造する事でアメリカンサイズの限界を超える視野の広さを目指し、このアイピースのバレルを外すとM48のオスネジになっていた事から、そこに42mm→48mmステップアップリング、M42メスの継手リングを取り付ける事で形にする事が出来ました。

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このアイピースは2インチで可能な最大視野を確保するスペック「ではない」事が逆に奏功し、M42のリングの内径とこのアイピースの絞り環径がほぼ同じでケラレが発生しない、M42のねじ込み式としては最大の実視界を確保出来るアイピースとなっています。但しこの方法ではダイアゴナル側の射出口径不足によるケラレが発生する可能性がある為、ダイアゴナルとアイピースの距離を極力(30mm程度)開ける事でこれを回避しています。

尚この状態から更にM42オス-36.4mmオスの変換アダプターを接続すれば36.4mmのねじ込み式アイピースとして使う事も恐らく可能です。上の写真の状態で340gとXW20より軽い位ですので、36.4mmねじ込み式に対応したダイアゴナルをお持ちの方には使えるアイピースの一つの選択肢として有用かも知れません。

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UF30mmと比較するとミニボーグ50-BINOでは良像範囲がUFが9割に対してSWAは7割程度と差がありますが、これがF5.6のミニボーグ71FL-BINOでは最周辺までほぼ点像、当然よりFの長い他の双眼望遠鏡でもほぼ100%の良像範囲で正直周辺像は余り良くなさそうな印象を持っていたのでこの結果は意外でした。SWAはレンズ枚数が少ない事もあってヌケが良い様に感じられ、癖の無い気持ちの良い見え味で安価な中華広角アイピースに抱いていたイメージを払拭する程の良質な見え味にショップの「自信を持ってお勧めする」との宣伝文句にも思わず納得です。

国際光器 Fujiyama HD-OR12.5mm その2(見え味編) [天文>機材>アイピース]

このアイピースと笠井のHC-Orは設計は同一かも知れないと前回推察しましたが、HC-Orと比べてピント(絞り環)位置が対物寄りでピントが出し易い事、また脱落防止溝が無い点が個人的に使い勝手がとても良いのでその後2本目を購入しました。

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双眼での木星の模様の見え味に関してはHC-Orと谷オルソの中間位かな?と言う印象ですが、ただ正直あっても「かも知れない」程度の差で、既にディスコンのHC-Orへの思い入れ補正が掛かっている疑いも否定できず、正直まともにとても良く見えるアイピースで文句を付けるような要素はありません。

手持ちの12mmクラシックアイピースの中ではリファレンス的な堅実アイピースと言ったところで、プローセルならMeade SP、アストロプランならタカハシLE、これらに並ぶアイピースとしてアッベならHD-ORと安心感、信頼感を持って使える位置付けの純国産アイピースとなっています。

中華製のプローセルも正直良く見えるのですが、製造品質面でやはり国産アイピースは及ばない印象で、最近の中華アイピースも雑さはかなり無くなってきましたが、それでもこのアイピースの様な上品さを感じる事は個人的にありません。古き佳き国産クラシックアイピースの造りの真面目さが残っている現行品では希少なアイピースだと思います。

ところで先日同じく希少な国産クラシックアイピースとして現存していたタカハシのAbbe、LEシリーズがディスコンのニュースが突如流れました。両者ともとても評判の良いアイピースなだけにとても驚きましたが、自分的にはこのニュースを見てかつて笠井のHC-Orがディスコンになった時の状況を思い出しました。これは販売者側の判断ではなくOEM元の都合が原因ではないかと考え、当時HC-Orと並んで手に入り易い国産アッべとして認知されていた谷オルソにも影響があるのでは?と感じ谷オルソを何本か急遽購入しましたがやはりその後まもなくディスコンとなってしまったのです。

タカハシAbbeとHD-ORではスペック面で必ずしも同一ではありませんが、同時期に販売開始された(BORGやサイトロンと共に)事からOEM元は同じメーカー(大井光機)ではないかと個人的に推測しているのですが、それであれば次はHD-ORが危ないのではと思わなくもありません。谷オルソは現行品だった頃は非常に地味な存在で、現代風のアイピースが市場を席巻し始めた当時では見向きもされない部分すらありましたが、ディスコンになった後によくある事ですが国産アッべの良さが再評価され、中古相場が急騰しプレミアが付く程になった経緯を見ていますので、正直谷オルソよりHD-ORの方が国産アッべとしての完成度は高いと感じていますので、ディスコンともなれば同じように再評価される可能性は十分にあり、買い煽りではありませんが、現行品で手に入る内に興味のある方は早めに確保した方が良いのかも知れません。

タカハシのニュースを見ると後継製品を鋭意開発中、ともなっていますので国産アッべの灯が消えない事を祈ります。