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惑星デジタルスケッチ 2021/12/09 [天文>デジタルスケッチ]

自分の惑星観望は木星土星火星がメインで、金星については夏場はベランダから見える位置に来ない点、冬場は見えても低空でシーイングの悪い時が多いのでこれまで積極的に狙う気分になれなかったのですが、日没直後であれば高度もまずまずで金星は明るさがあるので観望に耐えるだろうと久々に望遠鏡で狙ったところ予想以上に大きく見応えがあり、内惑星ならではの満ち欠けする様子を観察するのも存外面白いと感じ、タイミングがあれば狙う事も最近多くなってきました。

それでもやはり壊滅シーイングの場合が圧倒的に多く、中々美しい姿と言うのは拝めなかったのですがこの日は相当にシーイングが良く、ここまで立派な金星の姿を拝めたのは恐らく初めてで、これは記録に留めたいと急遽デジタルスケッチしてみたのがこちらです。

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実際はもっと大気の揺らぎが見えていましたが、それを脳内でキャンセルしたようなスケッチとなっています。

次に木星を狙ってみましたが高度が高く更に良好なシーイングでこちらもスケッチを敢行しました。

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視直径は大分小さくなってきたように感じましたが、それでも口径9cmながら見えている模様はTSAとそれ程差は無いのでは?と思わせる詳細を見る事が出来ました。

今回使用したアイピースはLOMOのФото K20xと言うアイピースで、ФотоはPhotoのロシア語である事から撮影用の顕微鏡用接眼レンズかと予想しています。

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しかし眼視で使ってみても全く普通に使え、と言うより無印のK20xと見え味に差異を感じず、即ち非常に惑星も良く見える接眼レンズです。外から眺める限りでは光学系は全く同一に見えない事も無く、これに関しては2種類持っていても仕方無いかなと思う程で、どちらかは手放す事になるかも知れません。

Tマウント経緯台 その2(プチ改良編) [天文>機材>架台]

ユーハン Tマウント経緯台の使い勝手を幾つか良くしてみました。

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《軸径6mmフレキシブルハンドル取り付け改良》
ブランカ150SEDをこの架台で使用している時純正の微動ハンドルの長さが短く運用に支障を来たしていた事からより長いハンドルを取り付けられないか検討しましたが、この経緯台の微動ハンドル軸径はφ10mmで多く市販されているφ6mm径に適合する微動ハンドルを使う事が出来ず、軸径を変換するアダプターがどこかに無いものかと探してヤフオクで見つけたのがこちらの商品でした。

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bach_iijimaさんが出品されている「フレキシブルハンドル用アダプター」と言う商品で、このアダプターは本来8mm径を6mm径に変換するアダプターなのですが質問欄からこれを10mmから6mmに変換出来るように改造出来ないかと藁にもすがる思いで伺ったところ快諾して頂き、このお陰でビクセンの30cmのフレキシブルハンドルを取り付けられ、長い鏡筒でも快適に運用出来るようになりました。

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《カウンターウェイト搭載改良》
この経緯台は片持ちフォーク式でウェイトレスでもかなりの重さの鏡筒を運用出来るものの、鏡筒の形状によっては振り回すとバランスが不安定になる事もあり、観望会などで使用した時の万一の事故を防ぐ為、カウンターウェイトを付けられるように改良を施すことにしました。

何処にウェイトシャフトを取り付けるかを検討した結果、この経緯台にはアクセサリー取り付け用のネジ穴がフォークアーム部分に設けられており、これを利用してウェイトシャフトを取り付ける事でウェイト搭載を可能としました。位置的にも理想的です。

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このウェイトシャフトも別の方がヤフオクで出品されていた「スカイメモS用ビクセン互換ウェイトシャフト」と言う商品でシャフトの両端にM8のメスネジが開いているのが特徴で、シャフト径はφ20mm(長さ20cm)でビクセンのバランスウェイトが装着出来ますが、現在は出品されていない模様です。

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《水平動クランプレバー干渉対策》
この経緯台に取り付ける機材によっては水平動のクランプレバーが機材を干渉するケースがしばしば生じた事から、クランプをM8の蝶ネジに交換する事で回避する事が出来ました。

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Kenko ASTRO LPRフィルター Type1 [天文>機材>フィルター]

twitterのフォロワーさんのあぷらなーとさんが世に広めたアクロマート鏡筒にデュアルナローバンド系のフィルターを組み合わせるとアポ並みにシャープな像が得られる撮影技法(参考記事はこちらこちら)を眼視にも適用出来ないかと以前観望仲間の方が所有されていたSE120にQBPフィルター(+バリアブルポラライジングフィルター)の組み合わせで月を見たところノーフィルターに比べて格段にシャープな像が得られる事が確認出来て、この場合色合いが大きく変わりますがその点に眼を瞑れば木星の表面模様などをよりシャープに観望する手法としては有用では無いかと考え、QBPを一種のプラネタリーフィルターとして使えるのではないかと興味を持っていました。

その後サイトロンから彗星向けと謳われたComet BP(CBP)フィルターが発売され、こちらはQBPの2つの帯域に比べより短い波長を通す3つ目の帯域を持っており、QBPより色表現はより自然に近いとの事から眼視にはこちらが向いているかも知れないとこちらも興味を持っていました。

その後新たな惑星観望用の鏡筒としてブランカ102EDPを入手しましたが、この時あぷらなーとさんからこの鏡筒がC線とF線が色消しとなっている古典的アクロマートに似通った設計となっており、デュアルナローバンド系フィルターとの相性が良さそうとの指摘を受けました。これは自分には全く思い付かなかったアイデアでしたがこれによりQBPやCBPの導入をより本気で考えるようになりました。

そんな折ツイッターを眺めているとシュミットさんからケンコーのこのフィルターが9割引近い価格でセールされているとの情報が入ってきて何気に特性を見ると何と一見CBPに似通った特性に見えて、これを102EDPと相性の良いプラネタリーフィルターとして使えないだろうかと急遽検討する事になりました。

そこでQBP、CBP、ASTRO LPR Type1(以下LPR T1と呼称)の透過特性グラフの横軸、波長(nm)のスケールを合わせてみました。

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LPR T1のグラフには代表的なスペクトル線の波長に相当する縦線を入れてみました。主なスペクトル線の波長は以下の通りです(HOYAのHPより抜粋)。

 波長(nm)スペクトル線光源 
 706.519 r線(赤色ヘリウム)He
 656.273 C線(赤色水素H
 589.294 D線(黄色ナトリウム)Na
 587.562 d線(黄色ヘリウム)He
 546.074 e線(緑色水銀)Hg
 486.133 F線(青色水素H
 435.834 g線(青色水銀)Hg
 404.656 h線(紫色水銀)Hg

この表を見ると古典的アクロマートが水素由来のC線とF線で色消しとなるように設計されていた理由が分かる気がします。QBPやCBP、LPR T1も光害の元になる水銀、ナトリウム由来の光源を概ね通さない特性になっている事から光害カットフィルターとしても機能する事が分かります。

3つのフィルターの特性の違いを見るとQBPはバンドパスの帯域が他の2つより狭く、より星雲の光に特化した設計で、CBPはプラス彗星の輝線(CN, C2, C3)を通す設計となっています。これに対しLPR T1は概ねCBPとバンドパス領域が近いですが、短波長側のバンドパスはやや長波長寄りでバンドパス幅も透過率も幾分低い設計となっています。これはQBPやCBPが基本撮影向けの設計なのに対し、LPR T1はより眼視用に振った特性と言えるかも知れません。

LPR T1はQBPやCBPに比べると最大透過率が若干低いですが、フィルターの特性としては近い効果が得られる事が期待出来、何と言っても価格が爆安であった事から衝動買いしてしまったのでした。

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入手後早速ブランカ102EDPにこのフィルターを付けて木星を見たところ全体の色調は先述のSE120+QBPで見た時とほぼ同じ(青緑色)で、3つ目のバンドパス領域が増える事による色調の変化は殆ど感じられませんでした。表面模様の見え具合に関してはNEBやSEBなどの模様のコントラストが明らかに向上しており、これはこのフィルターの黄色(d線)を通さず赤色(C線)を通す特性によるものと推測され、もし大赤斑が出ていればこれを見易くする効果も期待できます。

次に半月に向けてみたところフィルターを付けた状態では月のクレーターのエッジや高低差が低い部分の細やかな凹凸がよりはっきり見える気がします。ノーフィルターに比べて見えないものが見えてくる感じでもありませんが微細な構造が一見見易く感じ、これはシャープネスが向上していると言っても差し支え無いのではと言う印象で、これはこの鏡筒の球面収差図から読み取れる、C線とF線が色消しになっている反面d線がやや離れている特性とこのフィルターの相性の良さが出ている様にも思えます。尚このフィルターはg線を幾分通す設計ですが、眼視においては良くも悪くも見え味に影響していない様に感じました。

またこのフィルターの特性であれば月惑星だけではなくDSO観望におけるネビュラーフィルターとしても機能するのではないかと予測しましたが、光害地(SQM値18.7位)の空でM42を眺めてみたところノーフィルターより明らかに星雲の広がりが視認し易く、比較用によりバンドパスの狭いAstronomikのUHCとも見比べたところこちらはより星雲がもわっと広がって見えてやはりこれはこれで効果が高いと思いましたが恒星が暗くなるのに比べるとLPR T1はノーフィルターとUHCの中間的な描写で恒星の明るさと星雲の明るさのバランスが良く、ネビュラーフィルターとしての効果も十分に感じられました。

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古典的アクロマートがC線とF線の色消しを狙った設計が多いと言われるのはC線とF線に星由来の光を多く含むからと仮定して、この2線以外をカットするデュアルバンドフィルターとの組み合わせるこのアイデアは効率的に星の光を抜き出し、そしてそれらを合成してもピントがズレていないと言う効果が相俟って、アクロマート(もしくは同様の設計の廉価なアポクロマート)屈折からシャープな星像を最大限に引き出すテクニックとして、撮影は元より眼視においても有用な使用方法と言えるかも知れません。

この様な効果を狙ってデュアルバンドフィルターを選ぶ時、中でもバンドパス幅の狭いIDASのNB1、これよりはやや広いQBPも効果が高いと思われますが、眼視においてはOIIIよりUHCが見え味のバランスの良さで好まれるシーンもある様に、よりバンドパス幅の広いCBPや今回のフィルターも決して悪くは無い選択だと思います。重ねて注意点として眼視では色調が大きくシフトしますが(月も木星も青緑色になります)条件がハマれば高い効果が見込めるフィルターだと思います。因みに日本製です。