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ミニボーグ50-Hα太陽望遠鏡 [天文>機材>望遠鏡]

ミニボーグ45EDIIを使用したHα太陽望遠鏡で双眼装置を使用して観望する場合、バローを挟む都合で倍率が高くなり40mmのアイピース使用でももう少し低い倍率で観たいと感じる時が少なくなかった事から、対物レンズをより短焦点のミニボーグ50に換装しました。

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また従来の構成ではピント合わせにM57ヘリコイドLIIIを使用していましたが、これを対物側に置いてもエタロンが重く、接眼側に置いても双眼装置が重く動きが渋いのがストレスでしたので、今回フォーカサーもMMF-1に換装させたところ圧倒的に動きがスムーズで余裕があり、ストレスの無いピント合わせが可能になりました。今回の構成は以下の様になっています。

・Coronado SolarMaxII-40mmダブルスタック用フィルター
・Coronado SolarMaxII-40mmメインフィルター
・BORG ミニボーグ50対物レンズ【2050】
・BORG DZ-2【7517】+Vプレート80S【3165】+笠井DXファインダー台座
・BORG MMF-1【9857】
・Coronado BF5ブロッキングフィルター

鏡筒部分のボーグパーツは3つのみとほぼ最小(最短)構成となり、全長が以前より短くなった事で対物の先にあるエタロンのチューニングダイアルへのアクセスが容易になり、双眼装置も従来のMk-VからNikon顕微鏡用に交代して重量が軽くなった事で使い勝手も大幅に向上しました。

この構成にNikon双眼装置との組み合わせで最も倍率が低くなるバローを手持ちのものから調べたところMeadeの2xバローが最適で、これで拡大率が約3.8倍、AH40mmとの組み合わせで約24倍まで倍率を引き下げる事が出来ました。

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この組み合わせで期待通りに太陽像は大幅に小さくなり、双眼装置を使用しても十分な明るさで観望出来るようになりました。逆に今度は40mmアイピースでは若干小さく感じる様になり、TV PL32mmがより具合が良く、もうちょっと倍率を上げても良い感じですがとにかく見易くなり、PSTやソーラーマックス40鏡筒の焦点距離が400mmなのに比べてミニボーグ50の焦点距離は250mmですので、口径40mmのダブルスタックHα太陽望遠鏡で双眼装置を使用した太陽像としては他では出ない俯瞰した低倍率が出せているかも知れません。

Nikon WX10x50 その1(ファーストインプレッション編) [天文>機材>双眼鏡]

ざくたは激怒した。必ず、かの双眼鏡の王を手に入れなければならぬと決意した。ざくたには経済がわからぬ。けれども値上げに対しては、人一倍に敏感であった --『ポチれざくた』より冒頭の一節

自作の双眼望遠鏡は市販の双眼鏡に比べれば設計の自由度が高いので自分にとって至高のスペックの機材を追い求める事が出来る点が魅力的で、この中で低倍率広視界観望用途の自分なりの完成形として作り上げたのがミニボーグ55FL-BINOでしたが、このBINOの構築中、常にその向こう側に見え隠れしながら様々思考を巡らせても自作ではどうしても届かないと脱帽せざるを得ない、究極のスペックを実現したこの双眼鏡の値上げの報を聞き居ても立ってもいられず過去最高高度からの清水ダイブをキメてしまったのでした。

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この双眼鏡の究極と言える部分は、10x50のスペックで実視界9度の広視界、見掛け視界90度の超広角でありながら視野最周辺までの良像を実現している点で、例えば55FL-BINOにUF30mmの組み合わせも見掛け視界72度の広角で良像範囲ほぼ100%を実現した自分としては完成度の高いBINOと自画自賛していましたが、WXはこれを圧倒する見掛け視界に加え実視界をも上回り、瞳径も5mmと個人的により天体観望に適した(バックグラウンドが暗く、コントラストが良く、乱視の影響も出難い)スペックである事も大きな魅力でした。

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このスペックを実現する上で要となるのはやはりアイピースではないかと個人的に思いますが、WX10倍のアイピースのスペックを推測するならば対物レンズの焦点距離が200mm(F4)でアイピースの焦点距離を20mm、見掛け視界を90度と仮定すれば瞳径は5mm、倍率10倍で実視界は9度となりこの双眼鏡のスペックと一致します。仮にアイピースがこのスペックとして絞り環径を算出すると、

[視野環径]=[見掛け視界] × [アイピースの焦点距離] × π/180

より

90×20×π/180≒31.4mm

と算出されます。これはイーソス17mmの公称値29.6mmを上回り(あくまで仮定ですが)、イーソス17mmは鏡胴径が62.5mmと双眼用として使うにはやや太いのに対してWXのアイピース部分の鏡胴径は58mmに抑えられている事や、短焦点対物と超広角アイピースとの組み合わせと考えればこの見掛け視界で周辺までピンポイントの良像範囲を実現しているとなれば正に驚異的な設計と言えると思います。

恐らくこの性能はアイピース単体では実現は難しく、対物レンズやプリズム、フラットナーも含めたトータルの設計で生み出されていると考えればWXの為だけのオーダーメイドの(=通常のアイピースの様な販売数が見込めない)アイピースとも言え、更に双眼鏡なので2本必要と考えればアイピースだけで3、40万しても不思議ではない気がします(因みに現時点でのイーソス17mmの販売価格は一本148,500円となっています)。

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もしかするとこの様にアイピースだけ切り取って語っても意味が無いかも知れず、EDレンズを片側鏡筒だけで3枚使用していたり、Nikonの開発ストーリーを読むと最も開発に苦労したとエンジニアが口を揃える大型、高精度のアッベケーニッヒプリズムを採用している事なども考えればトータルの製品価格としてはやはり今の価格は妥当なのだろう(むしろ安いのでは?)と考えるところです。

スペックだけでなく見え味の点でも最高となるようにコーティングや迷光対策などの面でも惜しみなく技術が投入されており、防水設計は勿論、耐久性、耐候性を考慮しつつ限界まで軽量化された筋肉質なボディに窒素封入とおよそ現時点で考えられる性能向上の要素がふんだんに盛り込まれ、日本が世界に誇る光学機器メーカーのNikonが正に威信を掛けて開発した究極と呼んでも差し支えない双眼鏡と言えると思います。

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実物を手にした第一印象は、あれ?軽い?と手持ちでの使用を毛頭考えていなかった自分でしたが想像するより遥かに軽く感じ、公称重量2.5kgとの事でかなり身構えていましたが両手で持てば普通に眺められ、本当にこれ2.5kgもあるの?と思う程です。目玉を包み込むようにフィットする見口の形状が非常に優れており、恐らく手で持った時の前後バランスが絶妙でとても持ち易く、覗いている時の振動は10倍とは思えない程安定しています。

見え味に関してもやはりこの視界の広さは本当に圧倒的です。但し最初にこの双眼鏡を覗く前に一つ強くお勧めしたいのは他の普通の双眼鏡を直前に覗いてから見比べる事です。と言うのも望遠鏡のアイピースには既にナグラーやイーソスと言った超広角のものが出回っていますので、そうしたアイピースを見慣れている人であればうん、すごい程度で感動が薄くなる可能性があります。この双眼鏡の凄さが分かるのは他の双眼鏡を覗いた時で、WXを覗いた後に例えば自分の場合プリンスED6.5x32を覗くと(この双眼鏡も見掛け視界65度の広角です)うげっ狭っ!とその狭さに逆にびっくりします。普通の双眼鏡を覗いてから改めてWXを覗いて初めてとんでもない双眼鏡だと気付かされます。その意味ではやはり異次元の見え味です。

スペックだけを追い求めると疎かになりがちな覗き易さの面でもこの双眼鏡は特筆すべきものがあり、望遠鏡用の広角アイピースでは星見に最適化され昼間に使用すると目位置にシビア、ブラックアウトがし易いものも少なくないですが、この双眼鏡では当然かも知れませんが昼間の使用が想定されており、この見掛け視界から考えればとても目位置に寛容と言えると思います。勿論目位置をきちんと合わせずに視野をギョロつかせるとビーンズエフェクトは発生しますが、6段階のクリック付きターンスライド方式のアイカップがとても良く出来ており、きちんと合わせればとても快適に覗く事が出来ます。裸眼で近視気味の自分は3段目で使用していますが、見口を一番縮めれば眼鏡使用でも全視野が見通せるアイレリーフも持ち合わせており、アイレンズが凹んでいるので眼鏡と接触する心配もまずありません。

画質面でもやはり非の打ちどころが無く、透き通った歪の無い映像で眼前が満たされる印象で没入感が半端ではありません。自分的にはミニボーグ45ED-BINOから始まる低倍率広角のBINOを自作してきて、実/見掛け視界の広さと良像範囲の広さを両立させる対物レンズとアイピースの選択には本当に苦労させられたので、WXがこれらを凌駕する視界の広さでありながら隅々まで星が点に見える事は覗いていて本当にすごいなーすごいなーと言う言葉しか出てきません。正にマニアを唸らせる、と言うよりマニアこそ黙らせられる、そんな双眼鏡かも知れません。

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この双眼鏡の世間の評判を見るともっと口径が小さくても良いので安く軽くして欲しいとの要望も見受けられますが、この基本設計を踏襲する限り口径を下げても安価にも軽量にもならないと思われ、もし見掛け視界を下げてしまえばアイピースが小型軽量化され、全体のダウンサイジングにも繋がるでしょうが、それではスペック的に他の双眼鏡と競合してしまい、この双眼鏡の魅力が半減してしまう事でしょう。

またこの双眼鏡の開発ストーリーを先のニコンのHPで見ると開発には天文好きのエンジニアが多く携わっており、開発陣がこの双眼鏡での天体観望を強く意識していた事が窺われ、口径的に天体用には50mmは欲しいと言う想いがあったのだろうと、逆にこれ以上口径大きくしてしまうと手持ちの限界を大きく超えてしまう点でこの口径を採用したぎりぎりの判断があったのではと推察するところです。

この双眼鏡を手にしてIFでのピント合わせや重量の面でこれは双眼鏡人口の多いバードウォッチング趣味の方々は恐らく手を出さないだろうと感じ、人口の少なそうな天文趣味それも眼視派をターゲットにこの様な超絶価格の双眼鏡を販売するのはマーケティング的に余りに冒険的過ぎてよく商品化が許されたものだと感じられ、本当にこれは採算度外視(この価格でも)でNikonの開発者の半分趣味で作られたのではないかと、大企業Nikonの創業100周年記念と言う大義が無ければ作る事が許されなかった双眼鏡ではなかろうかと感じざるを得ません。



その2(自分的運用編)に続きます。

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Explore Scientific ES24mm/68° [天文>機材>アイピース]

APM12cm対空双眼鏡がアメリカンサイズのフル口径のアイピースでもケラれない事が分かった事で、最低倍率用に実視界が限界まで取れる長焦点広角アイピースが欲しいと物色した結果手に入れたのがこのアイピースでした。

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アメリカンサイズのフル口径のアイピースと言えば手持ちでTV PL32mm(視野環径27mm)を持っていましたが自分的に惑星観望では狭視界は気にならないのですがDSO観望では耐えられない事が分かり、今回見掛け視界60度以上で極力広い実視界が確保出来る条件で探した結果以下のアイピースも候補となり実際に見比べてみました。

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この条件では以前所有していたTVのパンオプ24mmが見え味において最強である事は多分疑いが無かったのですが、昨今の円安で恐ろしい価格となってしまい(現時点6万6千円)次点候補としてのアイピース選びとなっています。まずは室内環境でミニボーグ50(F5)で見比べたところでは、

・見掛け視界
ES24mm=ハイペリオン24mm>UF24mm>PF-25mm
・良像範囲
ES24mm(80%)>PF25mm(75%)>UF24mm(70%)>ハイペリオン24mm(60%)

APM12cm対空双眼鏡(F5.5)で見比べた印象では、

・良像範囲
ES24mm(ほぼ100%)=PF25mm(同左)=UF24mm(同左)>ハイペリオン24mm(90%)
・星像の良さ
ES24mm>=UF24mm>=ハイペリオン24mm(FPXフィルター使用)>=PF25mm

と言った印象です。

バーダーのハイペリオン24mmは視野絞りがバレル内径一杯を使用しており実視界は一番広く、像質も素直で室内環境では一番中心星像が鋭いと感じたのですが良像範囲は他のアイピースより若干狭い印象で、また難点としてピント位置がかなり手前側のアイピースで、APM12cmではそのままではピントが出ず、笠井のFPXフィルター併用でぎりぎりピントが出ましたがバレル端にフィルターを付けているせいか視野が若干ケラれてしまい、この部分で今回は脱落となりました。

笠井から最近販売されたプレミアムフラットフィールドを謳うPF-25mmですが、他のアイピースと見比べたところ公称値で同じ見掛け視界のUF24mmより少し狭く感じました(60度位?)がその分室内環境では良像範囲が広く感じ、この中では安価ながらフラットフィールド性能は中々高いと感じました。また今回見比べたアイピースの中では圧倒的に軽量で、3群4枚のケーニヒ設計との事ですので恐らくスマイスレンズも入っていませんので双眼装置との相性は一番良いかも知れません。

賞月観星のUF24mmは見掛け視界はES24mmやハイペリオン24mmより少し狭いですがやはりフラットフィールド性能は高く、室内環境では中心像のシャープネスはハイペリオン24mmの方が僅かに上回るかと感じましたがAPM12cmで実際の星を見ると逆転する程像質が良く、視野周辺隅々まで星が点で非常に優秀な見え味と感じました。

上記3種の見比べでUF24mmの見え味が満足行くものだったので採用し掛かったのですが、この後でES24mmの存在をtwitterでアドバイスされて思い出し、今となってはそれ程新しいアイピースでもなかったので大きくは期待していなかったのですが、今回見比べて公称値通りの見掛け視界の広さで、驚いたのはフラット性能の高さで良像範囲はUF24mmよりも広く星像も文句が無く、APM12cmでピントも余裕でこれ程優秀なアイピースが何故これまで話題とならなかったのかが少し不思議に感じる程で、今回環境ではパンオプ24mmの代替として文句無く合格点があげられるアイピースとして即採用となり散財した甲斐がありました。

このアイピースのアイレリーフは公称18.4mmで見口を立てた状態で覗くと丁度良い覗き易さになります。鏡胴径は56.2mmで双眼の使用も問題無く、重量も329gとXW20よりも若干軽量です。

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視野環径の公称値は27.2mmとなっており、パンオプ24mmの27mmよりもより攻めた設計に好感が持てます。これでAPM12cmでは実視界2.47度の視野が得られるようになり、より楽しめる散光星雲、散開星団が増えました。

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Explore ScientificはかつてTVに真っ向勝負のラインナップで彗星の如く現れたメーカーで、現在の製品群は、

・ES52° Series(3mm/4.5mm/6.5mm/10mm/15mm/20mm/25mm/30mm/40mm)
・ES62° Series(5.5mm/9mm/14mm/20mm/26mm/32mm/40mm)
・ES68° Series(16mm/20mm/24mm/28mm/34mm/40mm)
・ES82° Series(LER4.5mm/4.7mm/LER6.5mm/6.7mm/LER8.5mm/8.8mm/11mm/14mm/18mm/24mm/30mm)
・ES92° Series(12mm/17mm)
・ES100° Series(5.5mm/9mm/14mm/20mm/25mm/30mm)
・ES120° Series(9mm)

と言った非常に豊富なラインナップとなっており、中には見掛け視界120度のアイピースや3インチアイピースなどTVを超えるスペックの製品も出しており、広角アイピースの開発に非常に意欲的な姿勢が見て取れます。

今回初めてES製品の実物を手に取りましたが、製造品質は最近中華広角アイピースとしてスタンダードな存在となりつつあるXWA、UWA、SWAと比較すると一段上で、アイピース一つ一つにシリアル番号が刻まれているなど、性能面だけでなく品質面も重視するメーカーの姿勢が窺えます。

残念ながら現在はES製品は徐々に市場から姿を消しつつありますが、中華鏡筒や中華アイピースの安かろう悪かろうのイメージが払拭されつつある今だからこそ、意欲的な高級志向の中華アイピースとして見直されても良いシリーズかも知れません。