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Kenko ASTRO LPRフィルター Type1 [天文>機材>フィルター]

twitterのフォロワーさんのあぷらなーとさんが世に広めたアクロマート鏡筒にデュアルナローバンド系のフィルターを組み合わせるとアポ並みにシャープな像が得られる撮影技法(参考記事はこちらこちら)を眼視にも適用出来ないかと以前観望仲間の方が所有されていたSE120にQBPフィルター(+バリアブルポラライジングフィルター)の組み合わせで月を見たところノーフィルターに比べて格段にシャープな像が得られる事が確認出来て、この場合色合いが大きく変わりますがその点に眼を瞑れば木星の表面模様などをよりシャープに観望する手法としては有用では無いかと考え、QBPを一種のプラネタリーフィルターとして使えるのではないかと興味を持っていました。

その後サイトロンから彗星向けと謳われたComet BP(CBP)フィルターが発売され、こちらはQBPの2つの帯域に比べより短い波長を通す3つ目の帯域を持っており、QBPより色表現はより自然に近いとの事から眼視にはこちらが向いているかも知れないとこちらも興味を持っていました。

その後新たな惑星観望用の鏡筒としてブランカ102EDPを入手しましたが、この時あぷらなーとさんからこの鏡筒がC線とF線が色消しとなっている古典的アクロマートに似通った設計となっており、デュアルナローバンド系フィルターとの相性が良さそうとの指摘を受けました。これは自分には全く思い付かなかったアイデアでしたがこれによりQBPやCBPの導入をより本気で考えるようになりました。

そんな折ツイッターを眺めているとシュミットさんからケンコーのこのフィルターが9割引近い価格でセールされているとの情報が入ってきて何気に特性を見ると何と一見CBPに似通った特性に見えて、これを102EDPと相性の良いプラネタリーフィルターとして使えないだろうかと急遽検討する事になりました。

そこでQBP、CBP、ASTRO LPR Type1(以下LPR T1と呼称)の透過特性グラフの横軸、波長(nm)のスケールを合わせてみました。

flt-astr-lpr_2.jpg

LPR T1のグラフには代表的なスペクトル線の波長に相当する縦線を入れてみました。主なスペクトル線の波長は以下の通りです(HOYAのHPより抜粋)。

 波長(nm)スペクトル線光源 
 706.519 r線(赤色ヘリウム)He
 656.273 C線(赤色水素H
 589.294 D線(黄色ナトリウム)Na
 587.562 d線(黄色ヘリウム)He
 546.074 e線(緑色水銀)Hg
 486.133 F線(青色水素H
 435.834 g線(青色水銀)Hg
 404.656 h線(紫色水銀)Hg

この表を見ると古典的アクロマートが水素由来のC線とF線で色消しとなるように設計されていた理由が分かる気がします。QBPやCBP、LPR T1も光害の元になる水銀、ナトリウム由来の光源を概ね通さない特性になっている事から光害カットフィルターとしても機能する事が分かります。

3つのフィルターの特性の違いを見るとQBPはバンドパスの帯域が他の2つより狭く、より星雲の光に特化した設計で、CBPはプラス彗星の輝線(CN, C2, C3)を通す設計となっています。これに対しLPR T1は概ねCBPとバンドパス領域が近いですが、短波長側のバンドパスはやや長波長寄りでバンドパス幅も透過率も幾分低い設計となっています。これはQBPやCBPが基本撮影向けの設計なのに対し、LPR T1はより眼視用に振った特性と言えるかも知れません。

LPR T1はQBPやCBPに比べると最大透過率が若干低いですが、フィルターの特性としては近い効果が得られる事が期待出来、何と言っても価格が爆安であった事から衝動買いしてしまったのでした。

flt-astr-lpr_3.jpg

入手後早速ブランカ102EDPにこのフィルターを付けて木星を見たところ全体の色調は先述のSE120+QBPで見た時とほぼ同じ(青緑色)で、3つ目のバンドパス領域が増える事による色調の変化は殆ど感じられませんでした。表面模様の見え具合に関してはNEBやSEBなどの模様のコントラストが明らかに向上しており、これはこのフィルターの黄色(d線)を通さず赤色(C線)を通す特性によるものと推測され、もし大赤斑が出ていればこれを見易くする効果も期待できます。

次に半月に向けてみたところフィルターを付けた状態では月のクレーターのエッジや高低差が低い部分の細やかな凹凸がよりはっきり見える気がします。ノーフィルターに比べて見えないものが見えてくる感じでもありませんが微細な構造が一見見易く感じ、これはシャープネスが向上していると言っても差し支え無いのではと言う印象で、これはこの鏡筒の球面収差図から読み取れる、C線とF線が色消しになっている反面d線がやや離れている特性とこのフィルターの相性の良さが出ている様にも思えます。尚このフィルターはg線を幾分通す設計ですが、眼視においては良くも悪くも見え味に影響していない様に感じました。

またこのフィルターの特性であれば月惑星だけではなくDSO観望におけるネビュラーフィルターとしても機能するのではないかと予測しましたが、光害地(SQM値18.7位)の空でM42を眺めてみたところノーフィルターより明らかに星雲の広がりが視認し易く、比較用によりバンドパスの狭いAstronomikのUHCとも見比べたところこちらはより星雲がもわっと広がって見えてやはりこれはこれで効果が高いと思いましたが恒星が暗くなるのに比べるとLPR T1はノーフィルターとUHCの中間的な描写で恒星の明るさと星雲の明るさのバランスが良く、ネビュラーフィルターとしての効果も十分に感じられました。

flt-knk-astrlpr-t1_3.jpg

古典的アクロマートがC線とF線の色消しを狙った設計が多いと言われるのはC線とF線に星由来の光を多く含むからと仮定して、この2線以外をカットするデュアルバンドフィルターとの組み合わせるこのアイデアは効率的に星の光を抜き出し、そしてそれらを合成してもピントがズレていないと言う効果が相俟って、アクロマート(もしくは同様の設計の廉価なアポクロマート)屈折からシャープな星像を最大限に引き出すテクニックとして、撮影は元より眼視においても有用な使用方法と言えるかも知れません。

この様な効果を狙ってデュアルバンドフィルターを選ぶ時、中でもバンドパス幅の狭いIDASのNB1、これよりはやや広いQBPも効果が高いと思われますが、眼視においてはOIIIよりUHCが見え味のバランスの良さで好まれるシーンもある様に、よりバンドパス幅の広いCBPや今回のフィルターも決して悪くは無い選択だと思います。重ねて注意点として眼視では色調が大きくシフトしますが(月も木星も青緑色になります)条件がハマれば高い効果が見込めるフィルターだと思います。因みに日本製です。