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自作 Kepler 12mm(単レンズアイピース) [天文>機材>アイピース]

今回はセレストロンのSR4mmを流用したケプラー式のアイピースを自作してみました。

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ケプラー式とは言ってみれば凸単レンズでレンズ構成は1群1枚、これ以上簡略化のしようが無い究極シンプルなアイピースです。但し見掛け視界は10度程で、長いF(F30以上)の鏡筒で無ければ実力を発揮できない相当にピーキーな設計(?)ですが、個人的な運用では双眼装置にバローを併用するのでF値の問題はクリアー可能で、ごく狭い見掛け視界も惑星観望に限定すれば実用可能となり、この究極に少ないレンズ構成でどの様な惑星像を見せてくれるのか、期待と不安が入り混じりながら自作方法を模索していました。

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以前ボールレンズではなくケプラー式のアイピースの自作を考えた際、ドロンドをプローセルの半分を使って自作したように、単レンズならラムスデンの半分を使う事で自作できないかと検討したものの、二系(二群)からなる光学系の合成焦点距離をf、前群レンズの焦点距離をf1、後群レンズの焦点距離をf2、レンズ間隔をdとすると、

f=f1xf2/(f1+f2ーd) ・・・①

の式が成り立つ事は以前書きましたが、プローセルの様に前群と後群がほぼ接している場合はd=0と近似でき、更に前群と後群が同じシンメトリカルな設計であればf1=f2と出来る(前群と後群が同じ焦点距離)のでこれより、

f1=2xf ・・・②

が導かれ、つまり前群(もしくは後群)の焦点距離は合成焦点距離の2倍、例えば6mmのプローセルの半分を使えば12mmのドロンドが出来上がる公算になりますが、ラムスデンの場合通常は一定のレンズ間隔(d>0)が存在するのでラムスデンの半分を使えば倍の焦点距離のケプラーに、とは単純にならない事から狙いの焦点距離の単レンズを調達するならやはりEOから取り寄せた方が早く確実かなと考えていました。

そんな折twitterのフォロワーさんのLambdaさんのブログを眺めているとセレストロンSR4mmの分解記事が目に入り、ここでアイレンズと視野レンズの間に入ると思われるスペーサーの厚みが思いの外薄い(=レンズ間隔が狭い)事に気が付いて、またこのアイピースの実質的な焦点距離は6mmとの事でしたので、アイレンズと視野レンズの設計は違うとの事でしたが、むしろそれであればこのどちらかの焦点距離が12mmに近い可能性があるのではないかとの期待が生じて実際に見て確認したくなりました。

以前よりは若干値上がりした模様ですがそれでも一つ千円以内で入手出来、早速バラすと一見平凸レンズに見える視野レンズ、そして薄い両凸に見えるアイレンズが取り出せました。これらをそれぞれ倍率を確認したところ、視野レンズの方はやや倍率が高かったですが、アイレンズの方はほぼ12mmでビンゴとなり、更に幸運な事にレンズ径が6mmだった事から以前ドロンドを作った時に調達して余った6mm径のスペーサーがそのまま利用出来、視野レンズを外す代わりにこのスペーサー(つや消し塗装済)を入れる事でこの鏡胴をそのまま活用した、ケプラー12mmアイピース自作の見通しが立ったのでした。

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覗いた第一印象は予想はしていたものの見掛け視界の想像以上の狭さで、惑星観望限定としても実用の限界に近く、モータードライブによる自動追尾が必要なのは当然として、我が家のベランダ観望では極軸合わせは適当なのでこれでもじわじわ視野から外れて行きます。木星を300倍弱で見ると視野は木星の視直径の5倍位しかありませんが、良像範囲に関しては合成F30程度ある環境の為か割と視野周辺まで像の崩れは少ない様に感じられました。

肝心の中心像の見え味は全く普通に良く見え、木星を見ても国産アイピースの上位陣に比肩する素晴らしい像で意外過ぎて思わず笑いがこみ上げた程です。個人的にそもそもレンズ1枚で本当にアイピースとして機能するのか?と疑心暗鬼な部分が先入観としてありましたが、ここまで見えてしまうとこれまで多種多様な12mmアイピースを必死に蒐集してきたのは一体何の為だったんだろうと少しやるせない気持ちにさせられました(^^;

但し手持ちの12mmアイピースとの見比べではこのケプラーでもツァイスの接眼に勝てるか?と言えば微妙で木星の模様などはまだツァイスの方に軍配が上がる様に感じます。やはりレンズ一枚では収差補正もへったくれもありませんので複数のレンズを緻密な設計で組み合わせる事で単レンズを上回る、例えば多少明るさを落としてもコントラストを向上させる、もしくは結像性が上がり解像度も高まると言った効果を生み出している可能性もあり、そもそもレンズ(硝材)の種類、グレード、研磨精度などと言った品質面で見え味が大きく左右される事も大いに考えられます。

それでも条件さえ整えれば単レンズでも十分な見え味は提供可能であり、これであれば古の天文学者もそこそこまともな観測は出来ていたのではないかと、レンズの品質に問題が無ければこのアイピースの設計が足を引っ張る事はそれ程無かったのではないかと感じました。

そうとは言えやはりこの超絶狭い見掛け視界や使用条件は観望の妨げとなったであろう事も大いに予想され、このアイピースに慣れていたならハイゲンスなどは正に超広角アイピースと感じられたに違いなく、見え味も大きく変わらないのであればこうした設計、便利なアイピースに置き換わっていったであろう事は想像に難くありません。今回自作は実用性はさておき古典アイピースの発展の歴史に触れられた気がしたのが大きなメリットで、アイピースの奥深さを知る自身にとっての糧となったような気がしました。