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Nikon WX10x50 その1(ファーストインプレッション編) [天文>機材>双眼鏡]

ざくたは激怒した。必ず、かの双眼鏡の王を手に入れなければならぬと決意した。ざくたには経済がわからぬ。けれども値上げに対しては、人一倍に敏感であった --『ポチれざくた』より冒頭の一節

自作の双眼望遠鏡は市販の双眼鏡に比べれば設計の自由度が高いので自分にとって至高のスペックの機材を追い求める事が出来る点が魅力的で、この中で低倍率広視界観望用途の自分なりの完成形として作り上げたのがミニボーグ55FL-BINOでしたが、このBINOの構築中、常にその向こう側に見え隠れしながら様々思考を巡らせても自作ではどうしても届かないと脱帽せざるを得ない、究極のスペックを実現したこの双眼鏡の値上げの報を聞き居ても立ってもいられず過去最高高度からの清水ダイブをキメてしまったのでした。

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この双眼鏡の究極と言える部分は、10x50のスペックで実視界9度の広視界、見掛け視界90度の超広角でありながら視野最周辺までの良像を実現している点で、例えば55FL-BINOにUF30mmの組み合わせも見掛け視界72度の広角で良像範囲ほぼ100%を実現した自分としては完成度の高いBINOと自画自賛していましたが、WXはこれを圧倒する見掛け視界に加え実視界をも上回り、瞳径も5mmと個人的により天体観望に適した(バックグラウンドが暗く、コントラストが良く、乱視の影響も出難い)スペックである事も大きな魅力でした。

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このスペックを実現する上で要となるのはやはりアイピースではないかと個人的に思いますが、WX10倍のアイピースのスペックを推測するならば対物レンズの焦点距離が200mm(F4)でアイピースの焦点距離を20mm、見掛け視界を90度と仮定すれば瞳径は5mm、倍率10倍で実視界は9度となりこの双眼鏡のスペックと一致します。仮にアイピースがこのスペックとして絞り環径を算出すると、

[視野環径]=[見掛け視界] × [アイピースの焦点距離] × π/180

より

90×20×π/180≒31.4mm

と算出されます。これはイーソス17mmの公称値29.6mmを上回り(あくまで仮定ですが)、イーソス17mmは鏡胴径が62.5mmと双眼用として使うにはやや太いのに対してWXのアイピース部分の鏡胴径は58mmに抑えられている事や、短焦点対物と超広角アイピースとの組み合わせと考えればこの見掛け視界で周辺までピンポイントの良像範囲を実現しているとなれば正に驚異的な設計と言えると思います。

恐らくこの性能はアイピース単体では実現は難しく、対物レンズやプリズム、フラットナーも含めたトータルの設計で生み出されていると考えればWXの為だけのオーダーメイドの(=通常のアイピースの様な販売数が見込めない)アイピースとも言え、更に双眼鏡なので2本必要と考えればアイピースだけで3、40万しても不思議ではない気がします(因みに現時点でのイーソス17mmの販売価格は一本148,500円となっています)。

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もしかするとこの様にアイピースだけ切り取って語っても意味が無いかも知れず、EDレンズを片側鏡筒だけで3枚使用していたり、Nikonの開発ストーリーを読むと最も開発に苦労したとエンジニアが口を揃える大型、高精度のアッベケーニッヒプリズムを採用している事なども考えればトータルの製品価格としてはやはり今の価格は妥当なのだろう(むしろ安いのでは?)と考えるところです。

スペックだけでなく見え味の点でも最高となるようにコーティングや迷光対策などの面でも惜しみなく技術が投入されており、防水設計は勿論、耐久性、耐候性を考慮しつつ限界まで軽量化された筋肉質なボディに窒素封入とおよそ現時点で考えられる性能向上の要素がふんだんに盛り込まれ、日本が世界に誇る光学機器メーカーのNikonが正に威信を掛けて開発した究極と呼んでも差し支えない双眼鏡と言えると思います。

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実物を手にした第一印象は、あれ?軽い?と手持ちでの使用を毛頭考えていなかった自分でしたが想像するより遥かに軽く感じ、公称重量2.5kgとの事でかなり身構えていましたが両手で持てば普通に眺められ、本当にこれ2.5kgもあるの?と思う程です。目玉を包み込むようにフィットする見口の形状が非常に優れており、恐らく手で持った時の前後バランスが絶妙でとても持ち易く、覗いている時の振動は10倍とは思えない程安定しています。

見え味に関してもやはりこの視界の広さは本当に圧倒的です。但し最初にこの双眼鏡を覗く前に一つ強くお勧めしたいのは他の普通の双眼鏡を直前に覗いてから見比べる事です。と言うのも望遠鏡のアイピースには既にナグラーやイーソスと言った超広角のものが出回っていますので、そうしたアイピースを見慣れている人であればうん、すごい程度で感動が薄くなる可能性があります。この双眼鏡の凄さが分かるのは他の双眼鏡を覗いた時で、WXを覗いた後に例えば自分の場合プリンスED6.5x32を覗くと(この双眼鏡も見掛け視界65度の広角です)うげっ狭っ!とその狭さに逆にびっくりします。普通の双眼鏡を覗いてから改めてWXを覗いて初めてとんでもない双眼鏡だと気付かされます。その意味ではやはり異次元の見え味です。

スペックだけを追い求めると疎かになりがちな覗き易さの面でもこの双眼鏡は特筆すべきものがあり、望遠鏡用の広角アイピースでは星見に最適化され昼間に使用すると目位置にシビア、ブラックアウトがし易いものも少なくないですが、この双眼鏡では当然かも知れませんが昼間の使用が想定されており、この見掛け視界から考えればとても目位置に寛容と言えると思います。勿論目位置をきちんと合わせずに視野をギョロつかせるとビーンズエフェクトは発生しますが、6段階のクリック付きターンスライド方式のアイカップがとても良く出来ており、きちんと合わせればとても快適に覗く事が出来ます。裸眼で近視気味の自分は3段目で使用していますが、見口を一番縮めれば眼鏡使用でも全視野が見通せるアイレリーフも持ち合わせており、アイレンズが凹んでいるので眼鏡と接触する心配もまずありません。

画質面でもやはり非の打ちどころが無く、透き通った歪の無い映像で眼前が満たされる印象で没入感が半端ではありません。自分的にはミニボーグ45ED-BINOから始まる低倍率広角のBINOを自作してきて、実/見掛け視界の広さと良像範囲の広さを両立させる対物レンズとアイピースの選択には本当に苦労させられたので、WXがこれらを凌駕する視界の広さでありながら隅々まで星が点に見える事は覗いていて本当にすごいなーすごいなーと言う言葉しか出てきません。正にマニアを唸らせる、と言うよりマニアこそ黙らせられる、そんな双眼鏡かも知れません。

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この双眼鏡の世間の評判を見るともっと口径が小さくても良いので安く軽くして欲しいとの要望も見受けられますが、この基本設計を踏襲する限り口径を下げても安価にも軽量にもならないと思われ、もし見掛け視界を下げてしまえばアイピースが小型軽量化され、全体のダウンサイジングにも繋がるでしょうが、それではスペック的に他の双眼鏡と競合してしまい、この双眼鏡の魅力が半減してしまう事でしょう。

またこの双眼鏡の開発ストーリーを先のニコンのHPで見ると開発には天文好きのエンジニアが多く携わっており、開発陣がこの双眼鏡での天体観望を強く意識していた事が窺われ、口径的に天体用には50mmは欲しいと言う想いがあったのだろうと、逆にこれ以上口径大きくしてしまうと手持ちの限界を大きく超えてしまう点でこの口径を採用したぎりぎりの判断があったのではと推察するところです。

この双眼鏡を手にしてIFでのピント合わせや重量の面でこれは双眼鏡人口の多いバードウォッチング趣味の方々は恐らく手を出さないだろうと感じ、人口の少なそうな天文趣味それも眼視派をターゲットにこの様な超絶価格の双眼鏡を販売するのはマーケティング的に余りに冒険的過ぎてよく商品化が許されたものだと感じられ、本当にこれは採算度外視(この価格でも)でNikonの開発者の半分趣味で作られたのではないかと、大企業Nikonの創業100周年記念と言う大義が無ければ作る事が許されなかった双眼鏡ではなかろうかと感じざるを得ません。



その2(自分的運用編)に続きます。

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