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Nikon UW20x(顕微鏡用接眼レンズ、12.5mm相当) [天文>機材>アイピース]

顕微鏡用の接眼レンズを望遠鏡用として流用すると意外に性能が良いと言う話はこれまで耳にした事があったもののこれまで特に食指が動く事は無かったのですが、20倍の顕微鏡用アイピースが焦点距離が12.5mm相当と聞いて俄然興味が湧いて少し調べる事にしました。

顕微鏡用接眼レンズには本体に例えば「10x/22」と言ったスペックが表記されている事が多く、左側の数値は倍率を示し、右側の数値は視野の広さを示す視野数と呼ばれる性能値が書かれています。

これは望遠鏡用のアイピースとして考えた場合何を意味するかと言えば、まず顕微鏡の世界では明視距離(物体をはっきりと見易い距離)を250mmとする決まり事があり、よって物体を10倍の倍率で見る接眼レンズの焦点距離は25mmとなり、20倍であれば12.5mm、30倍なら約8.3mmと言った具合に250mmを倍率で割る事で焦点距離に変換できます。

また視野数に関しては、これはアイピースの視野絞りの直径(視野環径)をmmで表した数値で、以下の数式、

[実視界]=[視野環径] ÷ [望遠鏡の焦点距離] × 180/π ・・・①

[実視界]=[見掛け視界] ÷ [倍率]
[実視界]=[見掛け視界] ÷ [望遠鏡の焦点距離]/[アイピースの焦点距離] ・・・②

この2式から、

[見掛け視界]=[視野環径] ÷ [アイピースの焦点距離] × 180/π

と導けますので、視野数、即ち視野環径が22であれば倍率10倍(焦点距離=25mm)の場合、見掛け視界は約50.42度、大体見掛け視界50度のアイピースと算出できます。

今回顕微鏡接眼レンズを選定するに当たり、ebayで出品されている数多の中古品から絞り込んだ条件は、冒頭に書いた通り倍率は20倍のもので、メーカーは有名どころでZeiss、ニコン、オリンパス辺りから選びたいと考え、当初Zeissの顕微鏡接眼レンズを調べましたが殆どが10倍のもので、20倍の接眼レンズを殆ど見つける事ができず断念、次にニコンを調べてみると幾つか候補が見つかりましたが、20倍の接眼レンズはバローが内蔵されていると思しきものや、アイレンズが12.5mmにしては不自然に大きいものが目立ち、こうした接眼レンズはハイアイや広角を目指した現代風の設計の可能性があり、自分が求めるのは惑星観望用にレンズ枚数が少ない、クラシックな設計のアイピースでしたので、商品画像を吟味してバローを内蔵して無さそうなもの、アイレンズの大きさが12mmのクラシックアイピースとして妥当なもの、そして日本製と思われるものに限定して物色し、その中で特に面白そうに感じたのが今回の接眼レンズでした。

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顕微鏡用接眼レンズは望遠鏡用アイピースに比べるとネット上での情報開示に乏しく、この接眼レンズがどのような設計かなど詳しい情報は得られませんでしたが、販売年代は1990年代とされている情報をかろうじて見つける事ができました。この接眼レンズのスペック表記は「20x/15」となっており、先述の式から算出すると焦点距離が12.5mmで見掛け視界が約69度となります。もしこの接眼レンズの設計がクラシックなものであった場合、見掛け視界69度となると望遠鏡用アイピースでもあまり類を見ないかなり広角な部類に入り、このクラスの焦点距離でここまでの広角を実現しているクラシックアイピース(の改良型)となると他にはユニトロンのワイドスキャン笠井のEWV、復刻版Masuyama位しか思い浮かばず、こんな接眼レンズをニコンが作っていて、星見にも使えると考えるだけでテンションが上がります。

但し、顕微鏡のアイピースは望遠鏡アイピースとはバレルサイズが違い、そのままでは使う事ができません。顕微鏡アイピースのバレル径は30mmと23.2mmが規格となっており、望遠鏡のバレルサイズ(31.7mmや24.5mm)より一回り小さいですのでバレルにテープなどを貼ってサイズを合わせる事で流用するのが一般的なようです(流用そのものが一般的かどうかはさておき)。今回は植毛紙を試しに貼ってみたところまずまず具合が良かったのでそのままこれを採用しました。

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実物を手に入れてまず見掛け視界の広さをXWと比べたところ70度のXWより僅かに小さく、計算通り約69度程度ありそうです。またアイレンズを見ると紫色のマゼンダコートの様なコーティングが施されていますが、色合いに深みを感じるのでマルチコートなのかシングルコートなのか判断が悩ましいところです。一方バレル側から覗くとやはりバローは入っていない模様で、それ程長くは無いアイレリーフや全体のサイズ感からシンプルな設計、クラシックアイピースに類するものと推測されますが、見た目よりかなりずしりとした重さがあり、より凝った設計の可能性も十分考えられます。

まずF6屈折(ブランカ70EDT)を使用して室内環境で周辺像のチェックしたところ良像範囲は8割以上あり、同じ環境でEWV-16mmをチェックするとこちらは良像範囲は6割程度と言ったところで、良像範囲の絶対的な大きさで比べるとUWの方が広い印象です。

次に双眼装置で惑星を見た時の印象は、この時は自分的に望遠鏡用アイピースとして標準的な見え味(所謂「普通に良く見える」)と評価するタカハシLE12.5mmやGSO PL-12mmなどと比較して、中心像に関してはそれ程違いは感じませんでしたが、やはり視野の広さは圧倒的で、他の12mmアイピースでは木星土星を200倍以上で観望すると衛星が少なからず視野からはみ出るのに対して、この接眼レンズであれば多くの衛星を捉えられるのでより宇宙を感じさせてくれる、最近惑星は標準視界で覗く事に慣れていた自分的に、久々に広角の良さを思い出させてくれた印象深い体験となりました。

また望遠鏡用アイピースと見比べていて感じたのは顕微鏡用接眼レンズと言っても使用感は殆ど変わらないと言う点で、12mmのクラシックアイピースとしては比類ない広角を実現しつつ、中心から周辺まで良像で広角アイピースとしてバランスが取れたある意味ニコンらしい見え味で、この様なユニークで質の高い製品を手に入れる事が出来ただけでも顕微鏡用接眼レンズに目を向けた甲斐があったと思いました。

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因みにこの接眼レンズの製造年代が恐らく90年代と言う事で適当に97年の天文ガイドを見ると、ビクセンはLVやOr、K、H、タカハシはLEにMC Or、ペンタックスはXLやXP、SMCオルソ、Meadeは4000SPなどを販売していた時代で、ニコンの名前は既にここにはありませんが、やはりハイアイのアイピースが流行る前の日本製のクラシックアイピースが市場を席巻していた頃と言えるかも知れません。

この頃のクラシックアイピースは今でも銘アイピースとして評価の高いものも多く、こうしたアイピースを好む自分がこの頃のニコンのクラシックアイピースを覗いてみたいと考えた場合に、顕微鏡用接眼レンズに手を出す事になったのは必然だったのかなと思わなくもありません。