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FL-90Sオフセット双眼望遠鏡 [天文>機材>望遠鏡]

自分的に惑星観望用の機材はアポ屈折+双眼装置の組み合わせが鉄板でしたが、観望仲間の方のアポ屈折による双眼望遠鏡の惑星像がとても印象深かったので、自分の機材でもアポ双眼での惑星も見てみたい欲求に駆られた結果、自分が学生時代から使っている望遠鏡、ビクセンFL-90Sを双眼望遠鏡としてみたのが今回のBINOです(以降FL90S-BINOと呼称)。

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この形式はオフセット双眼望遠鏡と呼ばれるタイプで、2つの鏡筒を上下にオフセット(段差をつける)する事で鏡筒の左右間隔を狭める事が出来、松本式正立ミラー等を使わずに通常のダイアゴナル使用で双眼視を可能とするものです。Twitterのフォロワーのminoruさんがその名付け親で、自分も天文ガイドかネットかは失念しましたが、minoruさんのBINOでその存在を知りました。

オフセット双眼望遠鏡の長所と短所は以下の様なところです。

《長所》
・ごく普通の天頂ミラーを使用できるので安価に構築出来る。
・反射が一回で済むので像の劣化が最小限に抑えられる。
・目幅調整をダイアゴナルの傾斜で対応すれば構造が簡略化できる。

《弱点》
・天頂ミラー使用の場合裏像になる。
・10cm以上の中口径鏡筒では構築が難しい。
・下段鏡筒のバックフォーカスを大きく引き出す必要があり、場合によっては鏡筒切断などの改造が必要。

このFL-90SのBINO化は当初EMSを使う方法を検討していましたが、元々所有していた側の鏡筒は接眼部を2インチ化する為に鏡筒切断し、それも判断ミスで短縮し過ぎた(10cm強)のが仇となり、双眼用にもう一本鏡筒を入手しても長さの違う鏡筒を並べてBINO化するのは色々と問題が多かったのに対して、オフセット双眼であればこのアンバランスな状態を逆に活かしたBINOに出来る事に気が付いて、渡りに船のこの方式に助けられる事となりました。

今回のBINO構築で悩んた部分、工夫した部分を挙げてみます。

《目幅調整》
EMS使用の双眼望遠鏡では目幅を調整する方法として片方鏡筒をスライドさせるか目幅調整ヘリコイド付きのEMSを使用する方法が一般的と思いますが、今回のオフセット双眼では下側鏡筒のダイアゴナルを傾斜させる事によって目幅を変更する方法を採用しています。勿論片側のダイアゴナルのみを傾斜させれば左右の像で回転方向のズレが生じますが、オフセット双眼では下側鏡筒の回転軸からアイポイントまでの距離が大きく離れる事から、目幅調整程度のアイポイントの横シフト(±5mm)程度では左右の像の一致が妨げられる程の視野回転が生じない事を利用した手段です。この方法は他の方法に比べても格段に機構が簡略で安価に済み、この方法が採用できるのもオフセット双眼の大きなメリットと個人的には考えています。

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目幅最大時
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目幅最小時

例えば鏡筒間隔を65mm、目幅変更によるアイポイントの横シフト量を±5mmとする事で、目幅調整範囲を60~70mmと想定すれば、下側ダイアゴナルの回転軸からアイポイントまでの距離は例としてXW20を使用した場合実測約260mmとなる事から、横シフト量を最大の5mmとした場合の傾斜角θは、

・tanθ=5/260

から

・θ≒1.1°

となり、より全長の長いアイピースではこれより角度が小さくなり、この程度の像の回転では双眼視には全く影響しない印象です。

《L字プレート》
毎度お馴染みの強度には信頼の置ける中華L字プレートをベースに、アリガタの短さを補う為に2段重ねとし、また上鏡筒を取り付ける為のアリミゾを低重心の微動雲台を介して装着し、ここで視軸を調整します。

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また二つの鏡筒の内側にデッドスペースが存在し、このBINO全体を動かすハンドルも欲しかった事からこの部分にMoreBlueのプレート(AU016)を縦に装着、この空間から導入対象を狙えるようにファインダーアリミゾ、更に自作の覗き穴ファインダーも装着させました。

プレート部の全重量は約2750gと上鏡筒(約3.2kg)と下鏡筒(約3.8kg)を合わせると総重量は約10kgとなりますが、Tマウント経緯台で無理なく運用出来ます。

《接眼部》
上側鏡筒用としてノーマルのFL-90Sを手に入れたのですが、接眼部を笠井の蔵出しでたまに販売されるφ90mm径ネジに取り付け可能なクレイフォード接眼部に無加工で換装しています。これで両鏡筒共に2インチ対応に出来ました。

《ダイアゴナル》
上側鏡筒のダイアゴナルにはBBHSミラーを使用し、下側鏡筒のダイアゴナルは光路消費の関係からバーダーのT2プリズム(#01C)を使用、M42→M48延長筒を介して光路を上に伸ばしてダイアゴナルとアイピースとの間隔を十分に開ける事で、2インチアイピース使用でもケラレが生じない設計としています。因みにスムーズな目幅調整を実現する為にT2プリズムと2インチバレルの間にはM42の回転装置を挟んでいます。

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火星を高倍率で見た印象では見え味でブランカ150SED+双眼装置にはやはり及ばず、重量は同程度で扱い易さは150SEDの方が上ですので一見こちらのBINOの存在意義が危ぶまれそうですがそんな事は無く、150SEDやTSA等の単鏡筒での双眼観望は高倍率に限定されるのに対して、今回のBINOは高倍率から中低倍率まで幅広い領域をシームレスに双眼観望出来る部分が最大の強みと言えます。

これまでこの鏡筒の強みは高倍率性能と思っていましたが、高性能アポ双眼による低倍率観望はオフセット双眼による一回反射の強みも相俟って、星雲などは非常に解像度やコントラストが高く、何より星像が針で突いた様に鋭い事から特に散開星団が美しく見えます。接眼部を2インチ対応とした事でイーソス17mmの双眼が使える事も大きく、これで見るM42、二重星団、アンドロメダ、そして月なども見蕩れる程の見え味です。

自分的にはこれまで低倍率での天体観望ではアポクロマートまでは必要無いと考えていて、これまでアクロマート対物のBINOを使用しても特に不満を感じる事はありませんでしたが、今回のBINOのヌケの良さ、星像の美しさを見てしまうとアポクロマートの収差補正は低倍率域、DSO観望においても見え味の向上に少なからず寄与しているのではと思うようにもなりました。

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アイピースは低倍率用がイーソス17mm(倍率47.6倍、実視界2.1度)以外でもSWA32mm(25.3倍、2.77度)、そしてこれまで中々活躍する舞台が見出せなかった自作ACクローズアップレンズアイピース(焦点距離48mm、見掛け視界56度、倍率16.9倍、実視界3.32度)もこの長焦点BINOでは活かす事が出来るようになりました。

中~高倍率はXWA9mm(90倍、1.11度)、自作可変バローレンズEWV-16mmを使用して5mm相当(162倍、0.52度)、もしくは12mmクラシックアイピースを組み合わせて3.8~3.2mm相当(倍率は216倍~253倍)で使用する事で惑星や重星観望にも対応しています。アイピースの見比べにおいても従来は単鏡筒+双眼装置にとっかえひっかえで行っていたのに対し、このBINOではサイドバイサイドで見え味の比較が可能な部分も我が家の他の機材では出来ない強みとなっています。

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予め片方鏡筒が大きく切断されていた事情から選択せざるを得ない方式ではありましたが、実際に構築してみてオフセットビノの合理的な設計思想に感心させられる事が多く、自分もすっかりその魅力の虜となってしまい、双眼望遠鏡をより身近にする手段の一つとしてもっと広まっても良い方法だと感じました。何より愛着のあるFL-90Sをこれ以上無く性能を高める道が見付かって、今後も末永く(生涯)愛用していければと思うところです。